時代遅れにも程がある。石破茂が岸田首相トマホーク2000億円爆買いに「猛反対」する理由

 

石破茂が二階元幹事長につけた注文

石破は「サンデー毎日」でこうも語る。

▼共産党を除き野党も質問の冒頭に「防衛費の増額には基本的に賛成」などと言うものだから、迫力がなく、議論も深まらない。防衛費増額の内容について言及する質疑者も皆無だ。日本を取り巻く安全保障環境がかつてないほどに悪化している、という評価には同意するが、それがどういう分析に基づくものなのか、精緻な議論を期待していただけに残念でならない。

▼安保環境は確かに変わった。……ロシアがウクライナを侵略した。北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、……中国の軍拡は留まるところを知らない。ただ、今日のウクライナは明日の日本だとか、台湾有事が急迫しているとか簡単に言うべきではない。その前に外交がどこまで尽くされているかを徹底議論、検証すべきだ。

▼日中関係も今回の安保政策の大転換の背景として台湾有事を念頭に置くのであれば、それを意識した外交をむしろ積極的に行い、日中関係を前進させるべきだ。訪中の意向を示された二階俊博先生には、中国から信頼される数少ない政治家として、かつ、自民党の派閥の領袖であり、幹事長を長らく務めた実力者として、日中の関係改善に向けた道筋をつけてもらいたい。

▼この期に及んでも、親中派とか媚中派とかレッテルを張って、異端視する雰囲気が自民党内にあるのだとすれば、極めて憂慮すべきだ……。

立憲民主党が、防衛費増額や敵基地先制攻撃力の取得について「条件付き賛成」のようなことを言っているのは全く無責任極まりない逃げの姿勢で、その流れを作り出したのは枝野幸男=前代表の著書『枝野ビジョン』の誤謬にあることは、2月2日付日刊ゲンダイのコラムで指摘した(本誌2月6日号に転載=「永田町の裏を読む」)。

これでは石破に「だから、迫力がなく議論も深まらない」と言われても仕方がない。

ただただ「怖い」という感情を煽る稚拙な脅威論

しかし私は、石破も含めてほとんど誰もが自明の理であるかに繰り返す「日本をめぐる安保環境がかつてなく悪化」とか「ますます厳しくなっている」とかの言い方には賛成しない。

あれもこれも一緒にして「怖い」という感情を煽るようなことは“脅威”を論じる場合に絶対にしてはならないことで、中国の軍拡や北朝鮮のミサイル開発やロシアのウクライナ侵攻が、それぞれにどういう戦略的な意図の交錯の下に仕組まれているのか、そのそれぞれの場合にどういう戦術的選択の可能性があってそのどれがどう実行された場合に日本にいかなる危険をもたらしうるのかは、理性に従って、声高にではなく、それこそ「精緻な議論」を通じて、積み上げる必要がある。国会で行わなれなければならないのは、まさにそういう論戦である。

その上で、あくまで外交を重視すべきだとの石破の意見には賛成である。

「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」とはクラウゼビッツの有名な定義だが、これは間違いで「戦争とは政治の失敗を取り繕おうとする破れかぶれの手段である」と言うべきだという人もいるくらいで、戦争に訴えるなど愚の骨頂、何事も外交による話し合いで解決できればそれに越したことはないという常識が罷り通る世界にしなければならない。

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