「噂」と「暴露」で問題が連鎖。考えうる最悪のシナリオ
さて、一連の銀行の問題ですが、原因はシンプルなようです。基本的に次のようなメカニズムがあると思われます。
a)銀行なので、預かった預金を運用するには貸し出しに加えて、国債などの安全な金融商品で回すのが常道。その国債金利が利上げのために、大きく上昇。国債を含む債権というのはほとんどが固定金利なので、古い債券で金利の低いものは、高金利の時代には満期に十分な金利が入らないことが確定しているので、市場価格が低下する(ファイナンスの基本中の基本)。従って、金利上昇に対して債券に投資している元本を守るためには、きめ細かなマネジメントが必要。ところが低スキルの担当者が回している銀行では、ここで失敗して大きく元本を減らしていた。
b)だが、それは一時期のことであり、挽回のしようもあるし、そもそも銀行というのは「いつでも預金を全額引き出されても良いような現金を用意」するものでは「ない」ので、楽観視して流していた可能性。
c)そんな中で、SVBの場合はSNSで「資産内容が怪しい」という噂が流れた。
d)そこでSVBは信用不安に陥らないように、普通株、つまりSVBという会社の新しい株を売り出して資金調達を計画。これが悪手で、「疑惑はホンモノか?」という噂が広まった。
e)そんな中で、一気に預金引き出しと株の叩き売りが起きたのが木曜日。
という経緯です。では、どうして、他にも色々な地銀があり、同様に金利上昇に苦しんでいるはずである中で、SVBが一気に駄目になったのかというと、それは、
「取引先にシリコンバレーのベンチャーが多いので、SNSでの噂の拡散スピードが猛烈に早い」
「同じ理由から、電子取引(フィンテック)が多いので、預金流出が瞬速」
ということであったとされています。少なくとも、
「貸出先のベンチャーがどんどん倒れて銀行に連鎖した」
ということはないということです。NYSBの場合は、クリプト(暗号資産)関係の取引先が多いということですが、こちらもクリプトの価格低迷とは無関係とされています。
つまり、この問題は「狭い意味での信用危機」ということで、信用が回復すれば出血も止まり、問題は解消するといった種類の問題と言われています。ですが、この問題は、そう簡単に一日や二日では落ち着かないようで、以降は3つのシナリオが考えられます。
ア)今回のイエレン財務長官の対策が成功して、スッキリ解決する。つまり、SVB、NYSBについては、預金保険で全額保証ということで、資産のマイナスが圧縮される中で、「公的資金注入なし」で買収先が見つかり、再建に向かう。経営陣はクビ、株価は毀損されて株主は損するがそれは自己責任。但し、それが連鎖することはない。
イ)今回の問題は、ア)のように解決するが、他の弱体な地銀などで問題は「くすぶり」続け、結果的に連銀は「利上げのストップ」に追い込まれる。その結果、インフレ退治は中途半端に終わるし、派生的な影響としてはドル安に。
ウ)今回の問題が連鎖して、次から次へと地銀の財務内容悪化が「噂」と「暴露」により拡散。預金引き出しが広まる中で、中堅行まで動揺が広まる。その結果として、全く別の問題である「クレジットカード貸出残高」が問題になる。最悪のシナリオとしては、この問題が行き詰まることで、リーマン級ではないにしても、「ITバブル崩壊級」のショックが発生する。
とりあえず、金融関連の問題としては現時点では以上ですが、この他にも、米国経済には不安要素がまだあります。
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