リーマンショック級の金融危機は起きるか?米銀行の経営破綻が相次ぐ理由

 

2024年の再選狙うバイデンが「退治」に注力するもの

この問題とは更に別の話題になりますが、バイデン政権として現在頭を悩ませているのは、鉄道貨物の事故です。今年に入ってオハイオ州で2つの大きな貨物列車の脱線事故があり、州の東部で発生した事故では150両編成のタンク車が脱線、積み荷の「塩化ビニル」が爆発して炎上しています。その結果、周囲の環境汚染が懸念され、政治問題になっています。

この鉄道事故を巡る問題は根深く、この爆発炎上事故があり、同種のもう少し軽い事故が同じオハイオ州で起きて初めて、「保線の手抜き」が問題ということが、話題になるようになってきました。例えばですが、2年前に起きたモンタナ州における鉄道脱線事故(アムトラック特急)の原因が、やはり保線の手抜きだったということが、ここへ来てようやく報じられるようになっています。

さて、こうしたアメリカ経済の現状ですが、バイデン政権の判断というのは、非常に分かりやすいと思います。それは、現在の国民の不満の多くは「インフレ」であり、ありとあらゆる手段を使って、この「インフレ退治」をしたいという姿勢です。別の言い方をすれば、政権としてはどうしても2024年に再選を狙いたい、その場合の一番の争点は「インフレ」だから、そこに注力するというわけです。

今回の銀行破綻は、確かにアメリカ経済の全体に不安を与えたかもしれないが、政権としては「インフレ退治のための利上げ」を徹底するのは当然であり、多少の副作用は呑み込む構えというわけです。

石油開発の「ウィロー・プロジェクト」も「賛成した理由」は明快です。ウクライナでの戦闘が続く中では、当面は原油高が続きます。そんな中で、アメリカの石油自給率を高めることは、そのままストレートに「インフレ退治」になります。

鉄道貨物の「保線が手抜き」という問題を放置してきたのも、鉄道という「サプライチェーン」を廉価に維持したいという短期的な思惑、そして鉄道会社のカネは、組合員の待遇改善には回しても、安全対策には回さないといういい加減な姿勢が見て取れます。

最初にお話した銀行の問題でも、バイデン政権としての政治的計算は非常に露骨です。2008年のリーマンショック以降、「万が一に備えて」FDICつまり銀行の預金保険は上乗せされています。ですから、今回の数行の問題について「FDICが預金全額を保証」することは物理的に可能です。

何故そうするかというと、金融危機、信用危機は回避したいが「公的資金を入れる」のは避けたいからです。公的資金を銀行に入れると、右派も左派も猛烈に反発するからであり、政治的には、「公的資金なし」に問題を解決すれば得点になると思っているようだからです。

そんな訳で、バイデン政権からすると、行動には「合理性」があるのですが、一連の経済政策における判断の結果、一部に不満が溜まっていくことは懸念されます。

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