小林よしのり氏が疑念を抱く「こども家庭庁」の裏。隠す気もなくなってきた統一協会の恐ろしさ

 

こども家庭庁を統一教会理念の普及機関にするという企て

ところで、安倍は唐突に国連の「世界人権宣言」を出しているが、もちろん国連が統一協会の家庭観に「お墨付き」を与えているわけではない。

同宣言第16条3項には「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」とあるが、明確に同性婚を禁じている条文はない。

国連には同性愛を違法化している加盟国も多いため、LGBTに関する議論は長らくタブーとされていた。

だがこの十数年で状況は変わりつつあり、2011年には国連人権理事会において、LGBTの置かれた環境や状況に関する世界的な報告書作成を求める、「歴史的」といわれる決議が採択された。

また、2012年には潘基文国連事務総長がLGBTに関して、「あらゆる人の権利を守ることが、国連憲章と世界人権宣言によって私たちに課された責務」であると演説しており、少なくとも世界人権宣言が同性婚に絶対反対を唱える統一協会に対して「お墨付き」を与えるということは決してありえないのだ。

それなのになぜここで安倍が世界人権宣言を引っ張り出していたのかというと、これにも理由があるのだが、それは後述しよう。

統一協会のいう「伝統的家族観」とは、「儒教カルト的家族観」である。

女は男に従い、子は親に従うもの。

子育ては家庭(の女性)が担うもの、介護も家庭(の女性)が担うもの。

統一協会にとっては、保育園や介護施設の拡充は家庭の役割を奪い、家庭を弱体化し、崩壊させるものだということになる。

だから安倍政権下では、保育や介護に関する政策は非常に後ろ向きだったのである。

もちろん、子育てに関する国の政策を強化するなんてことは、家庭の価値観への侵害でしかないし、しかも子供を親から独立した一個の人格と見るという理念など、決して認められるわけがない。

だから安倍政権下では、こども庁創設の構想は全く動かなかったのだ。そして、高市早苗が総裁選でこども庁に関する態度を明確にしなかった理由も、もうバレバレだろう。

しかし安倍が退陣したことにより、こども庁創設は実現に向かった。

そこで統一協会は影響下にある自民党「保守派」の議員を動かして、「こども庁」を「こども家庭庁」にしてしまったのだ。

そうしてこども庁の理念を乗っ取って、「こども家庭庁」を統一協会の「伝統的家庭観」を普及するための機関にしてしまおうという企みが行われたのである。

別にこれは、憶測で言っているのではない。

統一協会が、そう思うしかない根拠をわざわざ提供しているのだ。

統一協会系新聞「世界日報」は、4月1日付で「こども家庭庁 伝統的な家族の良さ見直せ」と題した社説を載せている。

【社説】こども家庭庁 伝統的な家族の良さ見直せ

何ひとつ隠す気もなく、こども家庭庁を通して「伝統的家庭観」を普及させよと、ヌケヌケと主張しているのである!

社説では「こども家庭庁」への名称変更について、こう書いている。

新組織の名称は当初、「こども庁」が想定されていた。虐待被害児をはじめ「家庭」と聞くと傷つく子供がいるという意見や、戦前の「家父長制度」のイメージから、家庭は個人を抑圧するものと捉える政治家やマスコミからの圧力があったからだ。そうしたリベラル左派陣営の声を排して、こども家庭庁として出発することは評価できる。

前述のとおり、「こども庁」の名称は圧力をかけられて決まったものではない。むしろ問答無用で「こども家庭庁」にせよと迫った方が圧力みたいなものだったのに、これでは話が真っ逆さまである。

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