4.ChatGPTがプラトン哲学を復活させる
ChatGPT以前の教育は、教える側から教えられる側への一方的な情報の流れが主でした。試験についても、質問が一方的に出され、それに一方的に解答するという形式です。これなら、論理は固定することができます。権威ある先生による論文や書籍が正しいというルールを作れるのです。
古代ギリシャのプラトンは、対話形式により、哲学を表現しました。対話形式は話し言葉で書かれることが多いため、記述が分かりやすく、思考の筋道を読者が追うことが可能です。対話形式は動的な論理を生みだします。何が正しいのかは対話の中で常に変化します。正邪に絶対はなく、常に相対なのです。
対話形式はChatGPTに共通しています。チャットという形式は対話形式であり、平易かつ論理的な記述がなされます。絶対的な正義の論理ではなく、膨大なデータから自在に論理を組み立てているのです。
更に、ChatGPTは音声入力も可能です。二人の人間が対話している様子を記録すれば、それをテキストに起こすことができます。更には、翻訳や読みやすい文章に校正することも可能です。対話を取り扱えるメディアでもあるのです。
ChatGPTはチャットの中で、次の会話がどのようなものかを予測しています。その繰り返しにより、優れた知性を獲得しました。
人間も対話の中にこそ、論理的思考、哲学的思考を深めることができるのではないでしょうか。
一方的なモノローグは、思想を統制したり、情報をコントロールするのに適しています。現代社会の教育がモノローグ形式に集約しているのも、情報統制が目的かもしれません。
対話形式は、議論の方向がずれたり、論理が飛躍することもありますが、反面、自由な発想の相乗効果が生まれます。新たな思想が育つ可能性が高いのは対話形式です。
ChatGPTの誕生は、プラトン以来の対話形式による哲学を復活させるかもしれません。人間とChatGPTの対話、そして、ChatGPTによる人間同士の対話の記録と編集が可能になります。
現在はChatGPTの弊害や人間の仕事を奪うことばかりが強調されていますが、実は、対話形式により人間の知性の進化を、一部の人間が恐れているのではないでしょうか。
そもそも絶対的な正義や絶対的な悪が成立しないのですから、人間とAIが対立して戦争になることなどありません。人間の中にいろいろな意見があるなら、AIにもいろいろな意見があります。ある意味で、日本的な八百万の神々の世界、多神教の世界が誕生しようとしているのかもしれません。
■編集後記「締めの都々逸」
「哲学生むのは 対話じゃないか チャットも対話だ哲学だ」
現段階のChatGTPは、まだ対話の相手としては不十分です。あまりにも優等生であり、偏った意見をいうことができないように設計されているからです。つまり、仮説を立てる能力が低い。低く設定されているということです。その反面、現実の事象を元に網羅的な意見をいうことはできます。
それと、問題解決のために、嘘をついてでも相手を説得するということはできません。ChatGTPの嘘は、単なる知識不足で適当なことを言ってしまうだけです。全てが分かった上で、一定の方向に導くような嘘をつくようになると、これは陰謀に使えます。
もしかすると、既にそういう研究はなされているでしょう。メディアをコントロールするように、AIをコントロールしたいと思っている人間が存在するからです。
考えてみれば、人間も洗脳されるわけですから、AIが洗脳されないわけがありません。いずれにしても、今後の進化が楽しみです。(坂口昌章)
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
初月無料で読む
image by: Shutterstock.com