美しいビブラフォンの調べに酔いしれて。あなたは幻の作曲家・平岡精二を知っているか?

2023.06.30
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

 令和の世に再び光をあてた企画者に聞く、音楽家・平岡精二の魅力

今年4月、昭和の職業作家たちの発掘音源を集めた作品集『ビクター・トレジャー・アーカイヴス』シリーズの第二弾が発売された。作曲家の鈴木庸一、中村八大とともに選出されたのが、作曲家の平岡精二であった。 

 今回の平岡を含む職業作家の過去の偉業を発掘したシリーズは、一体どのように企画されたのか? そしてどのような楽曲が発掘されたのか? 数多くのCDを世に送り出してきた今シリーズの企画者であるアンソロジスト・濱田髙志氏にお話をうかがった。


──この度はお忙しい中、このような機会をいただきありがとうございます。作曲家の平岡精二さんですが、私は寡聞にして知らず、しかし曲は聴いたことがあるという知られざる作曲家だと思うのですが、彼のビブラフォンの調べを聴くと、今の時代においてもまったく古さを感じさせないモダンさがありますね。

濱田髙志氏(以下、濱田:今回のCDですが、DISC1は名作「或る窓/松尾和子」(1973年)を中心にロミ山田、中尾ミエ、フランク永井などビクター専属歌手のために書かれた楽曲を収録、DISC2は「ベッド・タイム・ミュージック」(初CD化)を中心に平岡精二のビブラフォン奏者としての代表作を収録しているんです。なので、ソングライターとしての平岡精二、ビブラフォン奏者としての平岡精二、さらに言えば大半の曲を自身が編曲していますので、編曲家としての平岡精二も楽しめるような内容になっています。

──平岡精二さんは、どのような功績を残されたのでしょうか?

濱田:平岡さんは、中村八大さんと同い年で、あの「クレイジーキャッツ」のバンマスであるハナ肇さんとも同世代の、日本のジャズブームを支えたミュージシャンの一人です。彼の作曲する曲は、歌謡曲でもジャズでも、歴史の彼方に忘れられていく流行歌ではなく普遍性、つまり「スタンダード」な楽曲なんですね。ヒットしていない曲でも、今の時代に聴いても良い曲だとわかる。彼の遺したダークダックス、ペギー葉山、松尾和子らへの提供曲は、いつの時代でも古くならないスタンダードソングとしての魅力があります。

──濱田さんといえば、今までコンピレーションCDなどを500枚以上も企画・監修されてきましたが、平岡精二さん単体のCDは今回が初めてなんですね。

濱田:今まで数多くのCDに関わってきましたが、実はチョコチョコ、平岡さんの曲をまぎれこませていたんですよ(笑)。でも、その名を冠した作品集というものが無かった。そこで、平岡さんをはじめ、鈴木庸一さん、中村八大さんという音楽家たちがビクターに残した楽曲だけで、作品集を作りたいという思いから、前回の山下毅雄、山上路夫、いずみたくの三氏に続く『ビクター・トレジャー・アーカイヴス』の第二弾を企画しました。今回のCDは、没後初の平岡精二作品集になります。

──今回の平岡精二さんを含む発掘音源シリーズの聴きどころを教えていただけますでしょうか。

濱田:平岡さんのグループにいたミュージシャンは、東海林修さんや宮川泰さん、ジミー竹内さんら、みなさん大成しているんですね。つまり平岡さんは目利きというか、審美眼がある天才肌の人だったんです。ある時期、クラブシーンで「ラウンジミュージック」がもてはやされたことがありましたが、ま平岡さんの演奏するビブラフォンの調べは、このラウンジ系の元祖なんですよね。文字通りラウンジミュージック。帝国ホテルのラウンジで奏でられていた音楽ですから。だから、そうした傾向の音楽好きの人にもぜひ聴いていただきたいと思います。ちなみに今回発売した3タイトルはいずれも全てマスターテープからの収録です。

なにも<平岡精二を流行らせよう>と思って今回の盤を企画したんじゃないんですよ。こういうスタンダードな曲を作っていた、演奏していた作曲家、ビブラフォン奏者がいた、ということを改めて知らせたいという思いからの企画です。とにかくCDというメディアのある今のうちに「盤にすることが重要」だと思います、多くの方に平岡さんの音楽の魅力が届くことを願っています。

──私も今回、平岡さんのモダンな音の数々を聴いて大ファンになりました。本日はお忙しい中ありがとうございました。


90年代中盤、渋谷に近い編集部に出入りしていた頃に、ビブラフォンの調べを効かせたラウンジ系の音楽をよく耳にしていた。渋谷系全盛期の当時は、古臭い喫茶店やホテルのバーカウンターに流れている音楽かなくらいの認識しかなかったが、大人になるにつれ、あのモダンで大人な雰囲気の音楽の良さに気づくようになっていた。実は、まさにあのラウンジ音楽こそ「渋谷系」だったのだと後年に気づいた。昨今では、ジャズのクールな音楽が若い人に人気なのだという。平岡精二の奏でるビブラフォンの優しい調べが、そんな彼らの耳に届く日も近いのかもしれない。(MAG2 NEWS編集部gyouza)

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ビクター・トレジャー・アーカイヴス

シティポップのルーツとも言える60~70年代にかけてヒット曲を世に放った職業作家たち。『いずみたくソングブック』などでお馴染みアンソロジスト・濱田髙志によるビクター専属作家3名の作品集、第二弾。初CD化音源を多数収録。

平岡精二ビクター・イヤーズ
鈴木庸一ビクター・イヤーズ
中村八大ビクター・イヤーズ

各2枚組
価格: 各3,520円(税込)

image by: 『ビクター・トレジャー・アーカイヴス

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