Google日本元社長が疑問視。国民生活より「インバウンドが優先」の亡国政策

 

さらに、これは私も大いに問題視しているのですが、東京では、インバウンドの増加や東京五輪での来日外国人の増加に備える、という名目で、羽田空港のA滑走路、C滑走路に着陸する2本の新航空路が開設され、2020年3月から、東京の都心上空を低空で飛行機が頻繁に飛び始めました。建前としては、南風好天時の到着便で、15時から19時の間の3時間程度とされていますが、実際は風向きや天候に関係なく、ほぼ連日この時間帯になると狭い間隔で新たに開設された2本の新航空路を間断なく飛行機が飛ぶようになりました。この時間帯は、上空での大きな騒音が途切れることがありませんし、落下物などのリスクもあります。なにより、これまでとても閑静だった東京都心の住宅街含めた地域の上空を、低空で頻繁に飛行機が飛び交う光景は威圧感もあり、かなり異様なものです(ネットに上がっている映像の一部はこちらから)。

この2本の羽田新航空路は、十分な国会審議や住民説明がないまま、安倍政権時代に官邸主導で強行されたものです。専門家からは、進入降下角の問題など、運行上の危険性もさまざま指摘されています。そもそも、羽田空港を利用する航空路は、米軍横田空域の問題や安全性の問題から、都心上空は避けて海上を使うのが暗黙のルールになっていました。

コロナ禍でインバウンド需要が蒸発し、飛行機が大幅減便になったにも関わらず、また、東京五輪も無観客開催となったにも関わらず、何故か国はかたくなにこの新航空路にもう3年以上飛行機を飛ばし続けてきました。まるで、固定化に向けた住民への嫌がらせのようで理解に苦しむところです。

観光立国を標榜して大勢の海外の方々に来日してもらうことは、経済効果のみならず、国際交流の面でも大変に結構なことだと思います。しかしながら、もともとこの国で静かに暮らしていた住民の生活が、さまざまな形で犠牲になるようなことまでして行うようなことなのでしょうか。国は、呼び込みにばかり躍起で、住民への影響を無視し、対策は自治体任せにしているように見えますが、あまりにも無責任だと思います。何故、自国の国民の生活よりも、インバウンドの方が優先されるのでしょうか。

冒頭、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という諺を持ち出しましたが、近年、行き過ぎた資本主義がさまざまな問題を引き起こすようになりました。新自由主義がはびこり、俗に言う「今だけ金だけ自分だけ」というような風潮も強まりました。結果的に、地球環境の問題などで、人類は今その行き過ぎた資本主義を静かに反省して方向転換する局面にいるのだと思います。たとえば、ひと頃24時間営業が当たり前になっていたコンビニや飲食などでも、人手不足もあって、度を越した過当競争を見直しています。

コロナ禍が一段落し、夏の観光シーズンを迎えてインバウンドがまた戻ってきていること自体は喜ばしいことでもありますが、自国民の生活を犠牲にしてまでの「観光立国」とは一体何なのでしょうか。

ここまで書き上げてふとツイッターを見ると、図らずも「インバウンド」「京都市民の怒り爆発寸前」がトレンドになっていました。「観光立国」という底の浅い無責任な国家戦略に、日本中から悲鳴が上がっています。それは決して、嬉しい悲鳴ばかりではないのです。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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