焦る習近平。なぜ中国は福一原発処理水の放出を猛批判するのか?

 

中国の主張に呼応するかのような日本の一部メディア

かつて青海省政治協商会議の議員を務めたことがあるアンナ・ワン(王安娜)氏は、このニュースが流れたことで、中国共産党は武装弾圧の準備を整えるだろうし、中国人が街頭に出るリスクも高く、成都で白書運動が好意的に受け入れられるとはあまり期待できないとしながらも、その一方で、それでも勇気を持って立ち向かう人もおり、成都の抗議運動の参加者がたとえ一握りであっても、大きな意義があるだろうと述べています。

台湾のある政府関係者は、習近平の権力は今後も揺るがないだろうが、前例のない3期目の任期延長を正当化できるのは「中国の夢の実現」だけなのにもかかわらず、中国経済は深刻な落ち込みを見せ、若者の失業率は20%を超えており、これが「白紙革命2.0」ともいえる新たな抗議活動の原因となっていると述べています。

最新の数字でも、4~6月期の中国のGDPは前期比+0.8と大幅にブレーキがかかっており、失業率も上昇して雇用状況はさらに悪化しています。

中国経済が“予想外”急減速 GDP前期比+0.8% 失業率も上昇し雇用状況は悪化

私は、中国が日本の福島原発処理水の海洋放出をことさら批判しているのは、中国人民の憎悪を掻き立てて、不満を海外に向ける目的があるのではないかと考えています。そもそも、中国の原発自身がトリチウムを含む水を海洋放出しており、その量も日本が予定する量より多いことはよく知られています。その量は福島が放出しようとしている量の6.5倍にもなるのです。

中国の複数原発がトリチウム放出、福島「処理水」の最大6.5倍…周辺国に説明なしか

自分のところのトリチウム放出には全く触れず、日本の処理水ばかりを問題視するのは、明らかに国内での人民の不満を日本憎悪に変えようとしているからでしょう。かつて天安門事件後に反日教育に走ったのと同じ理由です。

そのような「歴史の鑑」があるにもかかわらず、意図的か無意識かはわかりませんが、あたかも中国の主張に呼応するような主張を繰り広げる日本のメディアがあることも確かです。

たとえば東京新聞はIAEAが処理水の海洋放出の正当性を科学的に論証したことについて、『原発処理水の放出にお墨付き…IAEAは本当に「中立」か 日本は巨額の分担金、電力業界も人員派遣』という記事で、日本はIAEAに金や人を出しているから、中立的ではなく、日本は金の力でIAEAのお墨付きをもらったかのような主張を繰り広げています。

原発処理水の放出にお墨付き…IAEAは本当に「中立」か 日本は巨額の分担金、電力業界も人員派遣

たしかに日本はIAEAに多額の拠出金を出しています。しかし、日本とIAEAの主張に猛反発している中国も、IAEAには多額を拠出しています。しかも、分担金・義務的拠出金では中国は日本より上位の2位です。

外務省 ODA

もしも日本が多額の拠出金を出してIAEAのお墨付きを買ったというなら、日本同様に多額の拠出金を出している中国の意見はなぜ無視されたのかを言わないと、「金で買った」証明にはなりません。そもそも、東京新聞はなぜ中国の拠出金のことを書かなかったのでしょうか。

加えて、拠出金の多寡による影響力を語るなら、国連のほうがよほど問題でしょう。常任理事国という「特権国」があるうえに、近年は中国が多額の拠出金を出して影響力を露骨に使用しています。

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