日本経済を語る際、かならずと言っていいほど使われる「失われた30年」という言葉。そんな誰しもが疑いもなく受け入れている「定説」を、ノーベル経済学賞受賞学者が一蹴しています。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤さんが、ニューヨークタイムズに掲載された、日本経済を評価する経済学者のポール・クルーグマン氏の意見記事を紹介。さらに日本を停滞した社会とする見方を全否定するクルーグマン氏の言説を引きつつ、自身の見解を記しています。
日本経済:失われていない30年
「失われた30年」とよく言われます。バブル崩壊直後の1990年代から今までの経済成長の停滞の事です。
この言葉、当然のように語られてきまた。
しかしノーベル経済学賞の受賞者ポール・クルーグマンがこれに反対する意見をもっています。
紹介するのはニューヨークタイムズの7月25日に掲載されたの彼の意見記事です。
意見:日本に何が起こったのか?
1980年代後半、日本はとんでもないバブルに見舞われ崩壊した。
現在でも、日経平均株価は1989年のピークを大きく下回っている。バブルが崩壊すると、経営難に陥った銀行や過剰な企業債務が残され、それが何世代にもわたって経済の停滞を招いた。
この話には真実もあるが、日本の相対的な衰退の最も重要な要因を見逃している。
少子化と移民受け入れの消極性のおかげで、日本の生産年齢人口は1990年代半ばから急速に減少している。
日本が経済規模の相対的縮小を避ける唯一の方法は、労働者1人当たりの生産高が他の主要国よりもはるかに速い伸びを達成することだったが、それはできなかった。
しかし、人口動態を考えれば、日本はそれほど悪い結果にはなっていない。
以下は、1994年以降の生産年齢人口1人当たりの実質GDPの日米比較である。
グラフ:1994年を1として2022年で米国は約1.58、日本は約1.45
人口動態を調整すると、日本は(アメリカほどではないが)著しい成長を遂げている。
人口増加が弱い国は完全雇用を維持するのが持続的に困難になる傾向がある。
しかし、日本は実際、大量失業を回避してきた。その指標のひとつが、働き盛りの男性の就業率である。日本では高い水準を維持している。
日本の経済パフォーマンスは、実際にはかなり良かったということだ。確かに、雇用は大規模な赤字支出によって維持されてきた部分もあるし、日本の借金は急増している。
しかし日本は債務危機に陥っていない。
ある意味、日本は一種のロールモデルである。つまり、繁栄と社会的安定を維持しながら、困難な人口動態を管理する方法の見本なのだ。
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