“ラーメンの小池さん”今年で90歳!アニメーション作家・鈴木伸一さんが明かす、トキワ荘と手塚治虫とスタジオ・ゼロ

 

鉄腕アトム「ミドロが沼の巻」伝説的なエピソード

その「かんじ」が強く感じられるエピソードとして、「鉄腕アトム」第34話「ミドロが沼の巻」が挙げられる。スタジオ・ゼロの実質的な初仕事として手塚治虫氏から受けたものだったが、トキワ荘の漫画家たちそれぞれの作画タッチがそのまま各パートに出てしまい、手塚氏がラッシュを観て頭を抱えたという有名な逸話の詳細が本書のなかで述べられている。

「それぞれが漫画家ですからね、漫画家っていうのは癖があってこそ漫画家、癖が出てくるのが当たり前、それを考えもしないで受けて、手がないからみんなで分散してやったわけですから、当然そうなるというのは明確なんですけど……。手描きっていうのは本当によっぽど訓練しないと統一できない。だから作画監督制度というものを東映動画あたりがその後始めたわけです。ただ、当時のスタジオ・ゼロの面々は、だれもが僕より手塚先生の漫画に心酔して漫画家になった人たちだし、それを僕が直すのも失礼だし、それがそのままアニメーションになっちゃった。それがそのあと色々話題になったり面白がられたり。だから、漫画家とアニメーションというのは、本質的に違うものなんですね」

鈴木さんが本書やこれまでの著書の中で何度か述べられているなかで、「別の世界を見るのがとっても好き」「自分の中に良いものをどんどん蓄積させること。素晴らしい世界を見るのが非常に勉強になる」というメッセージが印象深い。それらはとても一般的な話ではあるけれども、じっさいそれを人生の中でずっと実践されてきた方からうかがうと、意味合いの存在感が違ってくる。

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「僕は基本的にほとんどちゃんとした絵の勉強なんかしていないわけです。漫画が好きで一人で描いていたくらい。最初に入った印刷会社で職人の先輩が描いているのを隣で見て、こういうふうにして描くのか、ということを吸収しました。当時はカラー写真なんてないから、その人から頼まれて港に船を見に行ってスケッチしてきて、持って帰ったそのラフを見て職人さんが実際の仕事の絵を仕上げる。まるで見てきたように描くわけです。そういうのを間近に観察して、とても勉強になりましたね」

面白いことは、話しているうちに消えてしまう、というメッセージもうけたまわった。

「おとぎプロ時代、縁側なんかで、横山先生にいろいろアイディアを話すわけです。話にしたままで過ぎてしまうから仕事の中でこっそり入れておく。試写で面白いねと言ってもらうと、天にも昇る気持ち、言葉で言われただけでうれしい。先生にヒントを与えたみたいなかんじがあって、うれしかったですね」

そういったいきさつで横山氏に「やってごらん」と言われ、鈴木さんがおとぎプロで監督をつとめた作品に「プラス50000年」というものがある。そのなかで鈴木さんは、人類の未来に対して、果たしてこのままでいいのか? という疑問をかんじ、ある悲観的なラストシーンを挿入した。

「先生はおそらくハッピーエンドで終わりになるんだろうなと思っていたんでしょうね。でも僕はそれでいいのかという思いがあって、ほんとにワンカットだったんですけど、悲しい結末を予測させるシーンを入れて、先生の様子をみてたんですよ。そうしたら、あ、こういうことだったのかな、という表情をされて、反対はされなかったですね」

ひとの作ったものにあれこれ言わない、という当時の方の鷹揚な姿勢がうかがえる。器の大きさという点では、横山氏に鈴木さんを引き合わせた中村氏にしろ、鈴木さん含め沢山の書生を抱えて面倒をみていた横山氏にしろ、当時の人物の面倒見のよさ、後進の存在への目のかけ方の篤さ、今ではなかなか見られない、聞かれない懐の深さを感じざるを得ない。

「そういう意味ではほんとうにラッキーでした。考えてみると、中村先生が紹介してくれて、横山先生にお会いできたことがずっと繋がっている気がします。みんな、いい人ばっかりに会ってきた、というかんじですね」

「当時ものすごく貧乏でしたから、食うや食わずのところだったのが、横山先生のところへ行って、三度三度のご飯が出る。それでやっと初めて、普通の生活ができた。先生がスタッフにご飯をいつも出されていた。おやつも出るしね。夢みたいな話でしたね」

「その横山先生のことを手塚先生がすごく尊敬されていた。それで、何かというと僕に電話をかけてきてくださって、ディズニーが好きだということもあって、そこも繋がったんです」

「日本の漫画は、横山先生のようなギャグと、手塚先生のストーリーの二つがあって、僕はその両方を受け継げてラッキーでした、時代的にも」

「手塚先生も僕も、なんでアニメーションに取りつかれたかと考えてみると、アニメは”いのちが描ける”。まるでフィルムの中で生きているように。それがアニメーションの魅力です」

「手塚先生は、まさにそういうことをやってらした。おとぎプロにいたころ、手塚先生からアニメのフィルムをお借りしたことがあるんですよ。それを映写するのではなく、フィルムを直接光に透かして見るわけです。面白い動きをしてるんですよ。どうやって自由自在に動くのか。タメがあったり、キャラクターが揺れたり。そうやってコマを分解してみて、とっても勉強になりましたね、どう誇張されているのか。そういうことをやらないと自然な動きに感じないんです。いのちを描く、ということですね」

「僕がトキワ荘グループに入ったというのも、今思うとラッキーな道を歩いている。それは、子供のころ『漫画少年』を買ってくれたおふくろが、いちばんもとになっているんです。その誌面を通じて、会ったことはなくてもどの県にどんな熱心な同好の士がいるかも知っていた。それがトキワ荘に繋がった。そうやって、幸運のところを歩んできた気がしますね」

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