「台湾有事は日本有事」の大ウソ。危機を煽る『週刊現代』総力特集の支離滅裂

 

記事の前後で整合性の取れていない『週刊現代』総力特集

(2)平和ボケの日本に有事対応はムリ、決められない政権が敗戦を招く/米軍が台湾軍を支援する場合、頼りになるのは在日米軍基地だけだが、それだけでなく日本政府と自衛隊が動かなければ戦況は大幅に不利になる。

(a)ところが、日本の「事態認定」は、切迫度の低い方から順に重要影響事態、存立危機事態、緊急対処事態、武力攻撃予測事態、武力攻撃事態という段階に分かれており、それぞれ自衛隊にできることが細かく定められているので、政府が対策本部を設置して審議し、総理が決断し、国会で承認を得るのは容易ではない、

(b)宮古島以西の先島諸島には10万5,000人の住民がおりその避難には数週間から数カ月かかる、

(c)台湾に2万人、中国に11万人いる在留邦人の避難はどうするのか……。

(3)人民解放軍を誰よりも知る日本人、山本勝也=笹川平和財団主任研究員インタビュー/山本は海上自衛官出身で、米海軍大学教授、防衛研究所部長を歴任した上、中国人民解放軍国防大学に留学、その後北京の日本大使館で防衛駐在官も務めた人物。彼によると、台湾有事における中国軍の戦略は、

(a)短期決戦が大前提で、

(b)台湾の都市部と指揮中枢を無力化し、

(c)米日に介入の口実を与えないため日本の領土には手を出さない、

(d)「国内問題」として台湾の掃討・鎮圧・統治を進めていく――

というにある。

(4)孤独な皇帝・習近平の胸の内/習近平はコロナにも怯える小心者で戦争なんか起こせるわけがない。しかし彼の意向を無視して人民解放軍が暴走するリスクがある……。

まず第1に、全体を通じて、どういう政治的条件の下で中国が台湾に軍事侵攻する可能性が出てくるのかのシミュレーションは皆無である。その上で、(1)では台湾侵攻が「目と鼻の先まで迫っている」(特集の前文)と煽り立てているというのに、(4)では習近平にはそんな勇気はなく、ただ彼を無視して軍が暴走した場合にのみ起こりうることになっている。

第2に、(1)では、いざという場合に中国は真っ先に台湾に近い先島はじめ沖縄の日米基地を先制攻撃することが中国にとって合理的とされているが、(3)では「米日に介入の口実を与えないため日本の領土には手を出さない」ことが中国軍にとって合理的とされている。これは、私見では、(3)が正しく(1)は何の根拠もない憶測もしくはデマゴギーにすぎない。

第3に、習近平が自分個人がコロナに罹らないようにすることについても、中国国民の犠牲者を可能な限り少なくするためにも、やり過ぎと思えるほどの徹底的な対策を採ったのは事実であるけれども、それは別に「怯え」とかいう話ではない。14億の民を抱える指導者としては当然の姿勢だろう。

また、彼が自分の方からいきなり台湾を武力で攻撃し支配するつもりがないのは、臆病だからではなくて、そうすることに何の外交的、経済的、内政的なメリットもないどころか破滅的なデメリットしかないことが自明であるというまことに合理的な理由によるものである。さらに、

彼ほど軍の勝手な真似を許さないという強い姿勢を打ち出した指導者はこれまでになかったと言っていいほどで、習を無視して軍が勝手に台湾攻撃に打って出ることがありうると思うのは、中国の現状を知らない人にしか言えないことである。

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