保身のために「ガザ攻撃」を続けるイスラエルの非道。無法攻撃を許す国際社会の無力と米国のジレンマ

 

ネタニエフがプーチンに対して示した不快感

ただ、周辺国が今、一番警戒するのがイスラエルとハマスの戦いが地域に広がり、自国がこの戦争に巻き込まれることです。

ゆえにサウジアラビア王国はイランと外交的な距離を縮め、お互いに直接的な介入を避けることで合意すると同時に、それぞれが影響力をもち、代理戦争となっているイエメンにおいて、それぞれの勢力に自制を呼びかける動きを見せています。

イランは外交姿勢上、ハマスによるイスラエル攻撃を称賛するものの、イランが影響力を持つレバノンのヒズボラに対して、対イスラエル戦線を自ら拡げないように要請しています。ただし、イスラエルからの攻撃がレバノンに広がる場合は、自衛権の発動の観点から、ヒズボラによる応戦は止めないという姿勢をとっています。

これはシリアのアサド大統領に対する要請でも同様ですが、こちらについては、予防的措置と題してイスラエル軍がダマスカスとアレッポの空港を爆撃したことの落とし前をつけなくてはならないと考えている模様で、今後、どのような動きがシリアサイドから出てくるのか心配です。

シリアに関していえば、規模はかなり縮小されているとはいえ、ロシア軍がまだ駐留しており、そこに元ワグネルの戦闘員が展開することで、イスラエルににらみを利かせていると言われています。

一応、プーチン大統領とネタニエフ首相は個人的な利害関係から、密接な関係を築いていることで、イスラエルもロシア勢力を傷つけるようなことは極力避けています。

ただ、あまりロシアが積極的にイスラエルを支持してくれないことに対して、ネタニエフ首相が不快感を示しているようで、「イスラエル人口の約15%はロシア系ユダヤ人であり、イスラエルを守ることはロシアの同胞を守ることにもつながる」とロシアの介入を要請しています。

そしてネタニエフ首相はプーチン大統領に対して、「ロシアがウクライナに侵攻した際、欧米諸国とその仲間たちからの要請にも関わらず、イスラエルは対ロ制裁には参加していない。また、ウクライナのゼレンスキー大統領は同胞ユダヤ人だが、ウクライナに対する武器供与も行っておらず、イスラエルはロシアに対する攻撃は行っていないことを覚えていて欲しい」と伝えているようです。

ただロシアとしては、旧ソ連時代からパレスチナとの連帯を維持し、アラブ社会とも良好な関係を築いてきたこと、そしてそれがウクライナ侵攻以降、欧米諸国とその仲間たちがロシアに科す制裁の効果を弱める役割を果たしていることから(注:OPECプラスの場で、アラブ諸国の産油国と共に、原油の増減産の手綱を握っている)、むやみにアラブ諸国の嫌がることはしないと思われます。

その代わりにロシアはイスラエル非難も避けており、ぎりぎりの線で気を遣っている様子が覗えます。

その背後では、長年築いていた中東地域でのバランサーとしての地位を維持したいとの思惑があり、ウクライナ問題が現在進行中の今では非現実的なオプションだと思われますが、チャンスがあればイスラエルとパレスチナ、ハマスの調停役を買って出るかもしれません。実際にネベンジャ国連大使(ロシア)はそのような動きを国連の場で果たそうとしているという話を最近よく耳にしています。

ただし、中東諸国もロシアも、ハマスを直接的なコンタクト先とは捉えておらず、戦闘が一時的にでも収まった場合には、パレスチナ自治政府をカウンターパートして、事態の打開と収束に向けた話し合いを主導しようとしています。ハマスの扱いについては、今回のことは不問とは決して言わないでしょうが、明らかな罰も与えないだろうというのが、大方の予想です。

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