保身のために「ガザ攻撃」を続けるイスラエルの非道。無法攻撃を許す国際社会の無力と米国のジレンマ

 

アメリカがイランに対して限定的な攻撃に出る可能性も

今回の戦争の処理と今後の姿は、イスラエルがどこまで徹底的にハマス攻撃をし、本格的な地上侵攻を行うのか否かによってきますが、アラブ諸国の関係者曰く、「国際関係のバランスの観点から、イスラエル排除は現実的でなく、イスラエルにシンパシーを感じる欧米諸国とのバランスを考えると、イスラエルとパレスチナの2国家成立が現実的な出口である」というのが構想のようです。

ただこの際、長年の懸案事項である“エルサレムの帰属問題”についての交渉ですが、これまでのように当事者に解決を委ねるという選択肢は現実的ではなく、国際的な関与が必要ではないかと考えている中東諸国が多くなっているようです。

ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の聖地であるエルサレムを国際的な管理地として3宗教の聖地として扱うという共同管理構想が、もしかしたら戦後のやり取りにおいて提示されるかもしれません(今、戦争は激化の真っただ中ですが、落としどころとしてすでにそのような話し合いを行っているグループが存在します)。

この際、“国際的関与”は誰を指すかは、かなり揉めそうな感じですが、アラブ諸国の考えでは、エルサレムに本部を置く新しい国際機関の設置が有力な案であるとのことでした。もちろんその受け入れにはイスラエルの同意が必要になりますが、国連との関係が非常に悪化している今、イスラエルが戦後、国連を自国に受け入れるかどうかは、また近未来の交渉案件かと思います。

現時点では、悪化する戦況とガザの悲劇に慄きつつ、周辺国は直接的な関与を避けています。

戦争がイスラエルとパレスチナの国境内で完結するならば、バックアップはしても、直接的な介入はせず、戦争が拡大し、エスカレートすることを食い止めるというのが、現在の共同スタンスです。

その背景には、産油国が自国の経済の中心であるエネルギー市場・価格に悪影響が及ばないことに今、神経をとがらせていて、積極介入による飛び火を避けたいという思惑が存在し、そこではサウジアラビア王国もイランも同じスタンスを取っています。

アメリカはイランの関与を非常に警戒していますが、イラン革命防衛隊もしばらくはイスラエルとハマスの戦いから距離を置く構えのようですし、何よりも今回の紛争のとばっちりを受けてアメリカとの直接的な軍事衝突が勃発することを過度に恐れているようです。

ゆえに目立った行動はとらず、口頭でのイスラエル非難は続けるものの、工作活動などは控えている模様です。そしてそれと並行して、アラブ諸国との関係改善と維持に力を注ぎ、シャトル外交も活発に実施することで、対米戦争への予防線を引いています。

実際には、今、ウクライナとイスラエルの2戦端に同時対応しなくてはならないアメリカには、イランと戦争したり、中国と事を構えたりする余裕はありません。

ゆえにやたらと中国との関係改善を狙い、来週サンフランシスコで開催されるAPEC首脳会合で米中首脳会談を実現させようと必死になっていますが、イランに対しては、バイデン政権の支持率向上のために、何かしら言いがかりをつけて限定的な攻撃に出る可能性があります。

もしアメリカがイランに対して何らかの軍事行動を取るような事態が起きたら、かなり高い確率でイスラエルとハマスの戦いは周辺国に飛び火し、アラビア半島全体から北アフリカを巻き込んだ大地域戦争に発展する可能性が高まり、それは地中海を経て南欧からユーゴスラビアに拡大していく危険性があります。

今、ロシア・ウクライナ紛争の停戦シナリオ、イスラエルとハマスの落としどころというon-goingな紛争の調停努力に加え、コソボとアゼルバイジャン・アルメニアの予防調停を行っていますが、このような歯止めの利かない、まるでドミノ倒しのような戦争の拡大をとても恐れています。

まずはハマスにさらわれた人質の安全な解放と、イスラエルによるガザへの無差別攻撃の即時停止の実現が最優先かと思います。

以上、今週の国際情勢の裏側でした。

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