アピール合戦は危険。日本が「イスラエル・ガザ戦争」で“成果”を焦るべきではない理由

2023.11.22
 

成果を出せず「失敗」と評される北方領土の返還

プーチン大統領は、日露経済協力について「信頼関係の醸成に役立つ」ものだと発言していた。それは、「本音」だったのではないだろうか。

そして、ウクライナ戦争が泥沼化し、日露間が対立する関係にある現在でも、ロシア側には安倍元首相に対する感謝の念と、日本に対する信頼が残っている。サハリンに5度訪問したことがある私は、その強い実感がある。だから、「サハリンI・II」の日本の権益は維持されたのだと考える。

一方、成果を出せず「失敗」と評される北方領土の返還について考えてみたい。例えば、成果を出すために「2島返還」でロシアと合意したとする。時の首相は、現実的な解決を図ったとして高い評価を得るかもしれない。

しかし、その30年後、ロシアに4島返還を交渉してもいいというかもしれない「開明的な指導者」が現れたらどうか。すでに「問題は2島返還で解決済み」とされてしまったら、4島返還の千載一遇の好機を逃すことになってしまうのだ。

30年前によかれと思った「現実策」が、成果を挙げることを焦った当時の首相による取り返しのつかない誤りだったと、後世から断罪されることになることもあるのだ。

外交とは、成果が出るかどうかにかかわらず、各国との確固とした関係を、日々構築していくことが重要だ。そもそも、国家間の懸案というものは、複雑な歴史的経緯があり、簡単に成果が出る単純なものではない。「北方領土4島返還」は、まさにそういう懸案だ。

国家間での確固とした関係とは、当方の原理原則を決して曲げることなく、一方で相手が当方に望むものを丁寧に受け止める。できることはやり、できないことはできないとはっきり伝える。毅然とした態度を取ることだ。

日常的に信頼関係を構築していることが重要だということだ。自分が得することばかり考えては信頼は築けない。いつか、劇的に長年の懸案が解決することがあるかもしれないが、それがあればラッキーだという程度の心持でいることが大切なのだ。

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