アピール合戦は危険。日本が「イスラエル・ガザ戦争」で“成果”を焦るべきではない理由

2023.11.22
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イスラエル軍による苛烈な攻撃が続き、まったく出口が見通せないガザ紛争。その解決のため各国がさまざまな動きを見せていますが、日本政府はこれといった成果を出せていないのが現状です。そんな状況について、「日本は中東で存在感を発揮できなくでもいい」とするのは、政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さん。上久保さんは今回、そのように言い切れる理由を解説するとともに、日本が提唱すべきガザ紛争解決策を具体的に挙げています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

日本は、無理に中東情勢での「成果」を焦るな。我が国が“本当に進むべき道”とは

イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘が始まってから、1カ月以上経過している。イスラエルとハマスの戦闘が膠着し、事態の打開が困難な状況が続いている。そんな中、日本などさまざまな国が思惑をもって行動し、停戦に向けた「成果」を強調する場面が少なくない。

11月7日、主要7カ国(G7)外相会合が東京都内で行われた。G7は、戦闘を一時的に止める「人道的休止」の支持、ガザ地区への食料や医薬品、燃料などを搬入するための「人道回廊」設置への支持を明記した「共同声明」を発表した。上川陽子外相は、G7が中東情勢を巡り責任ある役割を果たすために共同声明を出せたことを、日本の重要な「成果」だと強調した。

だが、日本が中東情勢に「存在感」を発揮できているとは言い難い。G7外相会議に先立って、日本以外のG7メンバー6か国が、中東情勢について協議をし、イスラエルの自衛権を支持することなどを柱とする共同声明を発表するなど、日本が蚊帳の外にされることも目立つのだ。

また、米国のホワイトハウスは9日、イスラエル軍がガザ地区北部で人道目的のために「1日4時間、戦闘を休止する」と発表したことを、「正しい方向への一歩だ」と歓迎した。そして、米国がジョー・バイデン大統領やアントニー・ブリンケン国務長官など、さまざまなレベルでイスラエル側との粘り強く協議を重ねた結果だと強調した。

だが、イスラエル側からは、戦闘の休止の時間や場所などに関する詳細な説明はない。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「戦闘は継続する。ただ、特定の場所で数時間、戦地から住民を避難させたい」「人質の解放なしには停戦は実現しない」と、停戦に否定的だ。

また、国連の人権理事会は、1日4時間の戦闘休止について、「人々に一息つかせ、爆撃のなかった生活の音を思い出させるだけ」と指摘した。そして、「パレスチナで集団虐殺が行われるおそれがあると指摘される中、イスラエルを擁護している」と米国を厳しく批判している。

そして、イスラエルはパレスチナ自治区ガザ地区への侵攻を続けている。多くの市民が避難しているとみられるシファ病院への突入作戦を展開している。イスラエルは、ハマスが病院を軍事拠点として使用しているとして「戦争犯罪」だと主張している。一方、パレスチナ側は、イスラエルが病院を攻撃すること自体が「戦争犯罪」だと反論する。戦闘は泥沼化する一方である。

このような、現実的に事態の打開が難しい状況下において、各国が目の前にある「成果」を出すことに執心し、アピール合戦になることは、危険だと思っている。ここで、中東情勢から離れて話を進めたい。中東だけでなく、外交一般に普遍的な議論をしたいからだ。

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