アピール合戦は危険。日本が「イスラエル・ガザ戦争」で“成果”を焦るべきではない理由

2023.11.22
 

対露外交こそが安倍外交の「真のレガシー」

例えば、故・安倍晋三首相は、首相在任時にウラジーミル・プーチン大統領と27回も会談した。だが、遂に北方領土の返還を実現できなかった。この「対露外交」は失敗だったと評されることが多い。だが、以前この連載で指摘したように、私はこの「対露外交」こそ、安倍外交の「真のレガシー」ではないかと考えている。まず、それを再びまとめてみたい。

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その根拠は、ウクライナ戦争下、欧米を中心としたロシアに対する経済制裁と、それに対するロシアの報復が広がる中、日本が「サハリンI・II」の天然ガス開発の権益を維持することに成功したことにある。

「サハリンI・II」については、石油メジャーのエクソンモービル、シェルが撤退を決定した。ロシアは国営の比率を高め、三井物産、伊藤忠商事など日本勢から権益を奪い、それは中国、インドなどに渡されると危惧された。だが、ロシア勢は日本勢の権益を維持した。また、欧米も「サハリンI・II」を経済制裁の対象から外すことで、日本勢の権益維持を事実上容認している。

「サハリンI・II」の日本の権益が守られたのは、ロシア側に事情があったのだと考える。ロシアは、極東・シベリアがいずれ中国の影響下に入ってしまうという懸念を持ってきたからだ。

ロシアは極東・シベリア開発で、中国とのパイプラインによる天然ガス輸出の契約を結び、関係を深めてきた。しかし、中国との協力は、ロシアにとって「両刃の剣」だ。シベリアは豊富なエネルギー資源を有する一方で、産業が発達していない。なにより人口が少ない。

そこへ、中国から政府高官、役人、工業の技術者から、掃除婦のような単純労働者まで「人海戦術」のような形でどんどん人が入ってくる。シベリアが「チャイナタウン化」し、中国にシベリアを「実効支配」されてしまう。ロシアはこれを非常に恐れているのだ。

ゆえに、ロシアは極東開発について、長い間日本の協力を望んできた。極東開発は中国だけでなく、日本の参加でバランスを取りたい。これに応えたのが、安倍首相(当時)だった。

2016年、安倍首相とプーチン大統領は日露首脳会談でエネルギーや医療・保健、極東開発など8項目の「経済協力プラン」を合意した。官民合わせて80件の共同プロジェクトを進め、日本側による投融資額は3,000億円規模になった。過去最大規模の対ロシア経済協力であった。

この日本の経済協力は、「ロシア経済は資源輸出への依存度が高く、資源価格の変化に対して脆弱性が高い」というロシア経済の弱点を補うものだったことが重要だ。

資源に頼らない産業の多角化は、ロシアにとって最重要課題である。ロシアには「日本企業との深い付き合いは、ロシアの製造業大国への近道だ」との強い期待があった。安倍首相は、この期待に応えていたのだ。

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