中東で米英独とは明らかに違う立場にある日本
中東情勢に話を戻したい。日本は、現在の中東情勢に「存在感」を発揮できていない。だが、それはそれでいいのではないか。日本は中東の複雑さから縁遠いからだ。
米国は、イスラエル側を支持すると明確に表明している。その揺るがぬ立場の裏には、「ユダヤロビー」の存在がある。政策を親イスラエルの方向に動かそうとロビー活動をする組織だ。その組織力、発言力、集票力、財力で、大統領選などで大きな影響力を誇っている。
英国は「三枚舌外交」の歴史がある。100年前の第一次世界大戦中に、オスマン帝国と対抗するために、アラブの独立を認め、オスマン帝国解体アラブ人国家の建設を約束する「マクマホン書簡」、パレスチナにユダヤ人国家の建設を認める「バルフォア宣言」、オスマン帝国を大戦後に、イギリス、フランスで分割する「サイクス・ピコ協定」という3つの矛盾する約束をした。これが今日の中東の紛争の元となっているのだ。
そして、ドイツは、ナチス政権とその協力者による、欧州のユダヤ人約600万人に対する国ぐるみの組織的な迫害および虐殺である「ホロコースト」の歴史がある。ゆえに、その責任からイスラエルに対して強い支持を表明せざるを得ない。
日本は、これらの国々と明らかに違う立場にある。日本は、イスラエルとパレスチナ自治政府の間で中立の立場を保ってきた。石油輸入量の90%以上が中東からである。エネルギーの安定供給には、アラブ諸国との関係維持は不可欠だ。ゆえに、アラブ諸国が支援するパレスチナに対して、日本は財政支援を続けてきた。
一方、イスラエルが最大の後ろ盾とする米国など「自由民主主義」陣営への配慮も欠かせない。日本の安全保障は、自由民主主義陣営の協力なしでは成り立たないからだ。また、日本自体も、ハイテク産業が成長を支えるイスラエルに投資を増やしている。
その結果、日本は地域全体と関係は良好なものの、常にイスラエルとパレスチナの双方に配慮することになり、外交の自由度は狭まっている。
しかし、日本は無理に国際社会で主導権を取ろうと焦ってはいけない。日本国内はインフレに苦しんでいる。エネルギーの安定供給の確保が欠かせない。
その上、「台湾有事」の懸念が高まっている。米国やNATOとの安全保障体制を強化する必要もある。この2つのリスクのいずれかを崩すリスクは避けるべきだ。
一方、日本が掲げる外交の原則は、短期的な成果がなくとも貫くべきだ。イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する「2国家解決」を提唱することだ。
そして、ガザ住民のための人道回廊の設置や、人道援助機関のアクセスの確保など、具体的な課題の解決に取り組むことだ。どの国よりも地道に汗をかき続けることで、派手さはないが、確実な信頼を獲得していくことが、日本が進むべき道なのだと考える。
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