──今でこそ「管理野球」は当然のようにいわれていますが、管理野球を最初に導入されたのは川上さんですね。
私はね、野球という勝負において、“勝ち”に徹したわけですよ。
だから個人よりもチームの勝利を優先させたことは事実ですが、当時のマスコミのいう「管理」はかなり批判的な意味でした。
しかし、私は自分の考えを選手に押しつけたこともないし、個性を殺したつもりもないですよ。
私が考える「管理」とは、一人一人の個性を十二分に発揮させた上で、集団の目標を達成することなんだ。
一人一人の個性が発揮されなければ、集団としての目標を達成することはできない。
そのためには、勝つことを自分の手柄にしようとか、自分の名声を上げようとすることが先にたつと駄目なんです。
ですから、自分を捨て切っていないと、本当の意味の管理などはできんのですよ。
──そういう意味で、勝つために自らを賭けた川上さんの足跡は、まさに“忍の一生”といえるのではないですか。
そうです。もう一面からみると、“やる気”の一生といってもいい。
一つ一つのことにのほほんとやっとるだけでは何もできない。
死ぬか生きるかという苦労を重ねて、きざにいえば死線を何回も超えていって初めて逞しい人間ができるんですよ。
その死線を超えるときに、忍というか、そういう強さが必要なんじゃないですか。
なにがなんでもやってのける、途中であきらめないという不退転の決意、そういうものが大事でしょう。
私は育ちが貧乏だっただけにね、やってのけないことにはしようがなかったわけですから、ハングリー精神というのは、子供のころからありました。それが支えにもなったわけです。
──ハングリー精神も、その裏にはまさに忍の心がありますね。
自分はもう駄目だと思って逃げてしまったりあとずさりしたら、それで堕落してしまうわけです。
大事なことは、それをどう受け止めるかという受け取り方、そしてそれをどう実行していくかということなんですからね。逃げちゃ終わりですよ。
image by: Shutterstock.com