菅前首相に出番を与え麻生副総裁に対峙させた意図
岸田政権を支えているのは、まぎれもなく麻生派(志公会)、茂木派(平成研究会)、岸田派(宏池会)を中心とした派閥の連携である。しかしそれは、麻生副総裁が主導権を握った体制だといえる。
麻生氏はポスト岸田に茂木幹事長を考えているとされる。内閣支持率が下落を続ける岸田首相はいつなんどき「岸田降ろし」を仕掛けられないとも限らない。そこで、岸田首相は、あえて菅前首相に出番を与え、派閥力学を駆使してキングメーカーたらんとする麻生副総裁に対峙させたのではないだろうか。
すなわち、菅前首相の「派閥解消」論を誘発することで、麻生氏の行動に歯止めをかけるというようなことだ。一見、非主流である菅前首相にトクをさせ、主流派の麻生副総裁を貶めるようではあるが、追い詰められている岸田首相の頭はそこまで整理できていないだろう。いずれにせよ、国民が納得する「政治刷新」の結論が出ない限り、麻生氏らは政局を仕掛けづらくなったといえる。
一部メディアの報道によると、東京地検特捜部は、安倍派の事務総長経験者ら幹部議員の立件をあきらめた模様だ。誰もが、パーティー券売上のキックバックが「会長案件だった」と説明しているため、会計責任者と事務総長らの共謀が立証できないというのだ。会長といえば、細田博之氏や安倍元首相をさすのだろう。むろん彼らが還流の仕組みを知らなかったはずはないが、「死人に口なし」とばかりに口裏合わせをしたという見方がもっぱらだ。
この情報がホンモノで、西村康稔氏も世耕弘成氏も無罪放免となるのならば、まさに政治資金規正法の抜け道をうまく利用された形である。政治家に都合よくできている法律は、世の中の役に立たないことを証明している。
もう一度言うが、カネの亡者のような政治屋が集まり中途半端な会議体をつくっても、ろくな結論を導き出せない。国民をうまくごまかす文言をひねり出して、党改革を成し遂げたように見せかけるのがオチだ。
「派閥解消」などと言えば聞こえはいいが、政治が「数」であるならば、強い者のまわりに群れるのが自然である。不可能なことを言い募るより、できることをきちんとやるのが肝心だ。あれこれ見せかけの会議を重ねるのではなく、法改正によって政治資金を徹底的に透明化する方向に岸田首相は進むべきではないか。
それにしても、東京地検特捜部が“トカゲのしっぽ切り”をしただけでこのまま手を引くとすれば、あまりに情けない。政権に配慮し、いい加減なところで“手打ち”をしたと勘繰られても仕方がないだろう。
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