過去最高の人口増加も「経済破綻」危機という異常事態。いまドイツで起きている現象は「明日の日本」か?

 

「難民が移民になり、移民が良い労働者になる」は真実か

難民にかかるコストも国民を脅かす。その額、国と州を合わせて、すでに年間500億ユーロ(7兆8,000億円)を超えているという。しかし、ドイツ政府にそれを制御しようと言う気はあまりない。今では、スウェーデンやデンマークなど、かつて移民大国と言われていた国々が、全面的に受け入れをストップしているというのに、ドイツ政府は犯罪を犯した難民の送還すらぐずぐずと躊躇している。それどころか政府は昨年末、帰化の条件を大幅に緩和した。結局、ドイツでは、入ったら最後、皆がいずれ滞在を容認されるというのが現状なのだ。

政府はいまだに、難民が移民になり、移民が良い労働者になると喧伝しているが、中東難民に限って言うなら、労働力として活用するつもりだった産業界の期待はとっくの昔に外れている。2015年、16年に入った中東難民のうち職に就いているのは半数ほどだ。その背景には、ドイツ語の能力不足だけでなく、義務教育さえ終えていない人が多いという現状がある。彼らは当然、ドイツの福祉に依存することになる。

ただ、彼らが職に就けば就いたで、今度はドイツの労働市場では賃金が上がらないという状況が定着する。苦しむのは、競合する既存の労働者だ。

日本が労働移民の受け入れを止めるべき理由

昨年12月、『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)を上梓した。青山学院大学の福井義高教授との対談をまとめたものだが、福井氏は、人道的難民庇護は行っても、労働移民の受け入れは止めるべきだと主張している。なぜなら、移民のせいで押し上げられたGDP分から、移民にかかる賃金、子弟の教育、医療費、福祉などといった経費を差し引くと、ほとんど±ゼロになり、経済的にはほとんど意味がないからだという。敢えて言うなら、得をするのは労働者や一般国民ではなく、安い労働力を得られた資本家ばかり。

そもそも人手が不足している部門とは、皆が、「今の賃金ではやりたくない」と思っているセクターなので、「移民が来なければ、自国労働者がやりたくなる水準まで賃金は上昇する」と福井氏。戦後、ドイツと日本は奇跡の経済成長を経験し、人手不足に見舞われた。その時、日本は人手不足を「賃金上昇と省力化」で乗り切ったが、ドイツは、安い外国人労働力を入れたため、機械化や合理化が遅れた。

日本政府は、欧米の移民・難民が国家を押し潰すほどの問題となっている現在、遅ればせながら移民を導入するつもりだが、長期的な視野が欠けているのではないか。今こそ、国内の可能性に目を向け、本当に国民が幸せになれる経済のあり方を考えるべきだ。

特に現在、日本にいる難民は、皆、飛行機で来て申請するのだから、真の難民ではあり得ない。福井氏曰く、「本国で迫害されているから逃げてくるのだとすれば、女性や子供が中心となるのが自然です」。しかし実際には、最初、長い道中に耐えられる若い男性が来て、後で家族を呼ぶ。一旦入国した彼らが、難民資格の有無にかかわらず定住してしまうのは、ヨーロッパで起こっている事象を見れば容易に想像できる。

ちなみに、全く違った伝統や文化を持った人間を大量に入れると、社会の様相は根本から変わってしまう。「最悪の場合、これまでの文化が消えて無くなってしまう」と福井氏。それは、今、西欧で起こりかけていることだ。

混沌となったEUで、中東移民の受け入れを断固拒否している数少ない国の一つがポーランド。「ポーランド国民は、祖国を、現在、フランスの多くの街で見られるような風景にするつもりはない」からだという。本来ならばドイツも、難民のおかげで人口が増えたことを喜んでいる場合ではないだろう。

一方、日本政府こそ、これらヨーロッパの事例を参考にして、移民・難民政策を手遅れにならないうちに修正してほしい。一時的な安い労働力ではなく、日本の将来を視野に入れた長期的な視点が必要だ。そして同時に、真の難民の庇護に尽力し、世界に範を示すぐらいの気概がほしいものだ。

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)、『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)など著書多数。新著に、福井義高氏との対談をまとめた『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)がある。

image by : Pradeep Thomas Thundiyil / Shutterstock.com

川口 マーン 惠美

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