さらに2月15日に金委員長の妹で朝鮮労働党副部長の金与正談話が出された。全文を読めば北朝鮮政府の岸田政権への距離がよくわかる。昨年の外務次官談話では、
朝日両国が互いに会えない理由がない
だったが、こんどは
首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る
だ。首脳会談を無条件で行いたいとする岸田総理への呼びかけだ。しかし北朝鮮のこれまでの原則はまったく変えていない。
日本が、既に全て解決した拉致問題や、朝日関係改善とは何の縁もない核・ミサイル問題を前提として持ち出し続けてきた
と批判している。そして外務次官談話と同じく、日本政府の「政治的決断」を求めている。そこにどんな意図があるのか。
金与正談話は「個人的な見解」とするが、金正恩委員長の了解なしで出せるものではない。では日朝交渉は進むのか。北朝鮮は国際情勢を「新冷戦」と捉えている。米朝関係も南北関係も最悪の状況だ。そこに「無条件の首脳会談」を変更していない岸田政権がある。「解決済みの拉致問題」と原則を主張しても、日朝交渉が再開すれば、拉致問題でも話し合うのは、いつもの外交だ。
北朝鮮側が求めているのは朝鮮高校や幼稚園の無償化からの排除を是正すること、日本独自の制裁の解除だ。いま行われているのは拉致対策本部ルートでの「接触」であって「交渉」ではない。正式交渉となれば外務省が中心となる。いきなり岸田総理の訪朝発表があるわけもなく、実現するならば「ハイレベルの協議」の結果である。そのために岸田政権がどんな決断を下すのか。問われているのは日本政府なのだ。日朝関係筋(朝鮮総連ではない)は、「進んでいない」と私に語った。
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