バイデン大統領が遊説先で中国製鉄鋼とアルミへの関税を3倍以上に引き上げると宣言。自身の「対中強硬」路線を強調しました。この発言について、世界のメディアは大統領選イヤーの「中国叩き」と嘲笑気味に伝えたようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、トランプ時代の対中制裁関税を負担したのは米国民だとする指摘や、米国も重要産業の多くの項目に大規模な補助金を出している指摘を紹介。選挙に勝つための政策が自国の首を締めている可能性を伝えています。
大統領選挙の本格化で「対中強硬」を競う政界こそが経済の最大のリスクという皮肉
4月17日、大統領選の激戦地と予測されるペンシルベニア州ピッツバーグの労働組合で演説したジョー・バイデン大統領は、中国製鉄鋼とアルミの関税を従来の「3倍以上に引き上げる」と気勢を上げた。理由は、中国が「自分たちが必要とする以上の鉄をつくり、ダンピングしている」ことだという。そのバイデンの発言を少し詳しく以下に引用しよう。
「アメリカの鉄鋼労働者は、公正な競争がある限り、競争に打ち勝つことができる。しかし、あまりにも長い間、中国政府は中国の鉄鋼会社に国費を投入し、補助金を注ぎながら、できるだけ多くの鉄鋼を製造するよう押し付けてきた。中国の鉄鋼会社は中国が必要とする以上の鉄鋼を生産し、不当に安い価格で世界市場に流してきた。彼らは競争しているのではなく、不正をしているのだ。そして私たちは、ここアメリカでその被害を目の当たりにしている。(中略)
私は中国との公正な競争を望んでいるのであって、対立を望んでいるのではない。そして、私たちは中国や他の誰に対しても、21世紀の経済競争に勝つためのより強い立場にある」
つまりダンピングへの報復だという。だが、世界の多くのメディアはこれを、大統領選挙を見据えた「中国叩き」だととらえたようだ。例えば、韓国KBSテレビ(4月18日)の朝のニュース番組は、冒頭「再選を目指すバイデン大統領が『中国叩き』を強めています」と紹介。香港のテレビTVBも「明らかに大統領選挙やトラバルとなりそうなトランプを意識した発言」(『NEWS AT 7:30』 4月18日)と解説した。
バイデン自身も、「私は中国に対して厳しい発言をしますが、前大統領はまったくそういうことはしませんでした」と語っているのだから意図は明らかだ。
ドナルド・トランプも、自分が当選したら「中国からのすべての輸入品に60%以上の関税を課すことを検討する」と米FOXニュースの番組で発言している。今回のバイデンの演説はトランプの関税効果を狙い打ちし、相殺する意味を込めたものだったのだ。
ただ一方、アメリカが「過剰生産問題」を問題視し、関税という「中国叩きの新たな棍棒」(CCTV『今日亜州』4月18日)を振り回し始めたことに対しては、米中関係や中国に与えるダメージ以上に、長期的に見ればアメリカ自身をかえって弱体化させてしまうのではないかとの懸念も指摘される。
そもそもトランプ政権下で発動された対中制裁関税を実際に負担したのはアメリカ消費者だという皮肉(ロイター通信 2019年8月4日「アングル:トランプ氏の対中関税、負担は米企業と消費者に」など)は、いまやよく知られた話だ。