既存メディア不信を決定づけた「音声データ」の影響
県知事選がはじまると、意外にも興味深い展開が待っていた。知事としての斎藤氏の実績を評価する声がネット上でしだいに高まってきた。それとともにパワハラ批判は影を潜め、斎藤氏一人でスタートした選挙運動に多数のボランティアがかけつけた。街頭演説に集まる聴衆も日に日に増えていった。
斎藤氏のリベンジへの流れを決定づけたのは、「NHKから国民を守る党」党首、立花孝志氏の発言だった。「選挙運動をしながら斎藤前知事を盛り立てていく」と同知事選に立候補していた立花氏。他候補の応援のための出馬という手法に問題があるか否かはこのさい置いておこう。10月31日、明石市における立花氏の街頭演説で、驚くべきことが起きた。斎藤氏擁護派とみられる県議から入手したという音声データをマイクに近づけて公開したのだ。
個人のプライバシーを守るため非公開となった10月25日の百条委員会。片山前副知事と奥谷謙一委員長のやりとりの場面だ。以下はその一部。
片山氏「(県民局長の)パソコンの中には転覆計画を実行に移そうとした資料があります・・・側近のA氏、B氏を中傷するようなビラ、現実に24年度上半期に配布されている。それが残っています。・・・メールには 強烈な人事上の批判や側近グループを排除した人事案の資料が入っておりました」
このように、県民局長の公用パソコンに残っていた資料の中身を一つ目、二つ目と説明した後、片山氏は「三つ目には、言われていますように倫理上問題のあるファイルがありました。それは当該本人の不倫になります。10年間にわたり・・・」と語り出した。その瞬間、奥谷委員長はこう言って制止した。「そこは証言していただかなくてもけっこうです。プライバシー情報で・・・あの、暫時休憩します」。
立花氏はマイクの声を張り上げ、煽りに煽った。「一人の男性が自殺した理由を斎藤知事のせいにしたいんですよ。不倫してたからそれをばらされるのが嫌とか、相手のご主人からめちゃめちゃ責められてるんですって。それが理由で自殺した可能性が高い」
既存メディアはこぞって斎藤知事のパワハラを告発した県民局長が懲戒処分を受け、精神的に追い込まれて自殺したというストーリーを報じた。一方、立花氏は公用パソコンの中にあったファイルをもとにそれを真っ向から否定し、「斎藤知事は悪くない」と主張した。
むろん、どちらが正しい見方なのかはわからない。どちらも違っているかもしれない。いずれにせよ、立花氏の演説が選挙結果に及ぼした影響力はとてつもなく大きかった。
ただし、公用パソコンに本来、プライベートな記録はないはずである。片山氏はぶら下がり会見で「不倫日記」という言葉を出しているが、本当にそのようなものを残していたとしたら、疑惑の目を向けられるのも仕方がない。