「日本をゴミ一つない国にしたい」
トイレ掃除の実習が終わった後、学生を前に鍵山氏は講演を行った。質疑の時間に、一人の学生がこんな質問をした。
私は大きなことをやるために大学へ来て勉強しています。掃除のような誰にも顧みられない小さなことにこだわっていては、大きなことができないのではないでしょうか。
そこで鍵山氏が「あなたは、大勢の人が見ている前で、道に落ちている一本のタバコの吸い殻を拾うことができますか」と尋ねると「拾えません」。「あなたはずいぶん立派な体格をしていますね。手を見せてください。こんなに立派な手があってどうして拾えないのですか」とさらに聞くと、学生は「恥ずかしいから、とてもできません」。
私は、毎朝、自分の会社の周辺と道路を掃除しています。バス停にはいつも5、6人、多い時には10人もの人がバスを待っています。その目の前で、ゴミ拾いをすることは、なんとなく気恥ずかしいものです。ましてや、その人たちの足元に落ちている吸い殻を拾うのには、そうとう抵抗があります。
しかし、人間というのは、そうした抵抗を超えていくことで心が鍛えられ、より成長できるものだと思います。ですから、吸い殻を一日に少しずつでも拾って歩けば、そのたびに大きな勇気が得られることになります。
私は、この吸い殻や空き缶などをただ拾うことだけが目的ではなく、日本をゴミ一つない国にしたいと思っています。これを小さなことだと思いますか?
学生は即座に「大きいことだと思います」と明快に答えた。
文責:伊勢雅臣
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