15個の石が意味するものは?京都・龍安寺の石庭に隠されたメッセージ

 

虎の子渡し説

南禅寺の大方丈などに「虎の子渡しの庭」と呼ばれるものがあります。配置された複数の石が川を渡る数匹の虎の姿に似ていることから名づけられたものです。この様子は昔の中国の説話に基づいたものです。虎が子を産むとその中には必ずヒョウが1匹混じっているというものです。ヒョウは一緒に生まれた虎を食べようとしてしまいます。例えば3匹の子供を産んだら、2匹が虎で1匹がヒョウが産まれます。母親の虎が川を渡る時は子供の虎を子供のヒョウと2匹だけにしないようにしなければなりません。母親は子供のヒョウを背負って1匹ずつ子供の虎に付き添って川を渡るのです。母親は2匹の子供の虎を川の向こう岸に渡すまでヒョウを背負い2往復するのです。どのような子供も平等に愛情を注ぐ母の子供を想う気持ちがよく表れた故事です。

子供は多めに生んで育てられなければ殺すか捨てるというのが一般的でした。そんな貧しい世相を反映し込められたメッセージだったのかもしれません。ヒョウも虎もどちらも自分が同時に生んだ子供です。虎の母親はとてもたくましくて優しいお母さんなのです。

昔はこのように庭や建築様式、絵画などに逸話の内容や仏教の教えなどを連想させるものを取り込んでいたのでしょう。このような先人が後世に伝えたい教えは数限りなくあるのでしょう。でも残念ながら現代はあまりに現実的な日常でしか生活をしていない人が多いように思います。

遠近法の謎

実は知らない人がほとんどですが、石庭の平面は平らではありません。見てわかるほど傾いてはいませんが左奥が低くなっています(言われてもあまり気づきませんよね)。これは排水を考慮した工夫です。

また、西側の壁は手前から奥に向かって50センチほど低く造られています。これは視覚的に奥行を感じさせるための工夫です。遠近法を利用し狭い庭を広く見せる高度な設計手法が使われているのです。高さ180センチの土塀は油土塀です。長い年月を耐えるために堅牢な作りになっています。

龍安寺が創建されたのは戦国時代です。それまでに造られた日本の庭園や絵画を見る限り遠近法の技法は使われていません。遠近法はヨーロッパのルネサンス期に主に採用されはじめた技法です。日本にキリスト教が伝わったばかりの時期でもあるので、キリシタン大名経由で当時の作庭家に伝わったのかもしれません。

ちなみに江戸時代初期に造営された二条城、桂離宮、修学院離宮、曼殊院門跡などを拝観してみて下さい。その随所に遠近法が使われているのが分かります。これらの庭に直接的、間接的に関わっていたのは茶人で作庭家でもあった小堀遠州です。彼は利休七哲の1人・古田織部に師事した茶人で「綺麗さび」を確立させた人物としても有名です。現在の京都の美意識は江戸寛永期に花開いたこの「綺麗さび」の価値観に基づいたものが多いように思います。龍安寺の石庭の設計にはもしかしたら小堀遠州が関わっていたのではという推測も出来るかも知れません。

枯山水庭園以外の龍安寺の魅力を簡単に2つご案内します。

侘助(わびすけ)椿

方丈の東庭の横には、豊臣秀吉が絶賛したといわれる日本最古の侘助椿があります。2月上旬から3月末が見ごろです。桃山時代に「侘助」という人が朝鮮から持ち帰ったのでこの名がついたと言われています。以後侘助椿は利休も好んで茶道の挿し花として用いられるようになりました。

手水鉢(ちょうずばち) つくばい

龍安寺には銭形をした知足のつくばいがあることでも有名です。中央の水穴を口の字に見立て上下左右に「五・隹・疋・矢」の四文字が刻まれています。「吾(わ)れ、唯(た)だ、足ることを知る」と読むことができます。これは釈迦が説いた「知足の心を図案化したもので、徳川光圀が寄進したものといわれています。

つくばいは茶室などに入る前手や口を清めるための手水を張っておく石です。「吾唯足るを知る」という意味は石庭の石を一度に14個しか見ることが出来ない事を不満に思わず満足する心を持つことの教えです。今ある命や健康、五体満足な身体など与えられているもの、すでに持っているものに感謝しなさいということです。完璧は目指さなければならない究極の目標であっても、それを求めてはいけないということなのかも知れません。

image by: Shutterstock

 

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