【復興石巻】80万個の缶詰の掘り出し洗浄 ~缶闘記 その4~東北まぐアーカイブ

2011.12.11
by よっすぃ~♪(まぐまぐ編集部)
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復興へのみちのり ~缶闘記 その4~

被災した水産業者が次々と廃業を決める中、老舗缶詰めメーカーが果敢にも会社の再建にのり出した。かろうじて柱と壁の一部が残された倉庫で、残骸に埋もれた商品を掘り起こし、事業復活に希望をつなぐ人々がいる。ふたたび人の行き交う街を目指して、復興へあゆみ始めた被災地。木の屋石巻水産の挑戦を通して、その長いみちのりを追いかけてみる。 (連載4回目:前回はこちら

作業着姿の女性が、泥まみれの缶詰にゆっくりと手を延ばした。ボランティアのビブスを着た十数人の若者の眼が、食い入るように彼女の手の軌道を追いかける。女性はひと呼吸おくと、迷いなく目的の缶を拾い上げた。

お疲れー!やったね!周囲から拍手とともに歓声が上がる。いつの間にか出来た人の輪が、彼女を取り囲んだ。汗と涙で顔をくしゃくしゃにした彼女は、愛おしそうに缶詰を握りしめ「ありがとう、お疲れさまでした」と搾り出すようにこたえた。

8月3日の午後、4ケ月以上続いた木の屋石巻水産の缶詰の掘り起こし作業が、この瞬間をもって終了した。最期の一缶は、カンさんと呼ばれるボランティアの女性が拾い上げた。2ヵ月以上、毎日のように作業に参加してくれた彼女は、木の屋の社員にとっても戦友のような存在だった。

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洗い終わった缶詰の選別を行う社員。

感動的な熱気に包まれた工場の片隅で、携帯電話を持って深刻そうに話し込む男の姿があった。社員の中村さんや鈴木さん、現場作業に出ていた木村さんの三人だった。受話器の向こうから、「あと500缶何とか出せませんか?」「先日話した物産展の件、あと1000缶どうしても必要です。お願いしますよ。」といった注文追加や催促の声がひっきりなしに聞こえてくる。

“希望の缶詰”として新聞や雑誌で取り上げられた木の屋の缶詰は、またたく間に話題となり注文が殺到していた。嬉しい悲鳴だが、洗浄作業が間に合わず希望に添えない。社員の木村さんは「せっかく注文を下さったのに、ただただ申し訳なくて」と、当時を振り返り言葉を詰まらせた。

秋も深まる頃、掘り起こした80万個近くの缶詰をすべて洗い終え、会社は新たな局面に突入した。「作業は”一区切り”ついたのですが、“終わった”とかいう感覚は全然ないんですよ。会社はまだスタート地点にすら辿り着いてない状況。まだまだ気を抜けない」と木村さんはいう。現在は協力工場の力を借りて、新商品の立ち上げと販売スタートに奮闘している。

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新商品のサンプルを手に「ようやく出ました!」と木村さん

「木の屋の皆さんが、安堵出来るのはいつですか」という問いに、商品開発の松友さんは「自社工場を再建して、また自分たちの手で商品を出せるようになった時ですよ」と力強く答えてくれた。(連載4回目)

※記事初出:『東北まぐ5号』(2011年12月配信)
2011年8月の配信開始以来、震災以降の東北に生きる人たちの生の声を、毎月11日にお届けしているオフィシャルメールマガジン『東北まぐ』。当連載『東北まぐCLASSIC』では、過去に配信された『東北まぐ』にて掲載された記事を、そのままご紹介します。そのため、記事の内容が現在の状況と異なっている場合がありますが、その旨ご了承下さい。
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