現時点で見えた「トランプ政権」の輪郭を、しっかり分析していく

 

▼17日には、安倍首相が会談を行う予定だが、とにかく悪いアイディアではない。トランプ側が人事も政策もできていない時期に、堂々と胸を張って会うのは決してマイナスではない。ただ、一瞬で人物鑑定をやる才能がありそうなので、絶対にナメられてはダメ。胆力と、瞬発力で負けてはダメだ。日本人独特の謙遜や卑下というのは、このリアリズムの塊のような人物には通用しない。

▼日米関係の今後だが、本来は、日米というのは、アメリカの太平洋戦略の要(かなめ)と言っていい重要政策。戦後のアメリカは、国連に加盟し、日米協調を行うという「国のかたち」を選択してきた。だから、理由なく変更というのはあり得ない。だが、これだけ「日本批判」を言い続けて当選した以上、何も変わりませんでしたというのは、難しい。

▼例えば、日米安保の防衛負担費について「思いやり予算」という言い方があるが、この言葉は、ワシントンの日本語のできる知日家の間で、ものすごく評判が悪い。俺たちが守ってやっているのに「一国平和」とか「戦前回帰」とか勝手なこと言いやがって、そのくせ負担費を「思いやり」というのは我慢できないというわけだ。せめて、こうした「言い方」だけでも「トランプ時代のワシントン」から文句を言われる前に改善できないものか。

▼また沖縄でヘリなどの事故があって米兵が負傷した場合に、「危ないじゃないか」といって批判されるというのは、多分この機会に「もう少し何とかしてよ」というのは出るのではないか。身体を張って守ってやっているのに、怪我した若い米兵にお見舞いの一言ぐらいないのか、そのぐらいは言いそうだ。その辺については、オバマやケネディ大使のような「物分りの良さは期待できない。この辺の話も、国の威信を壊してまで卑下する必要はないが、かといって現状でそのままというのは危険だ。

在日米軍撤退まで行く可能性は少ないと見ている。今申し上げた負担費の名称とか、双務性、特に大事なのは地位協定を改善しつつ、沖縄の米軍に対してウエルカムという国と沖縄としての姿勢を見せることができれば、日米安保の「実」の部分は守れるのではないか。

▼気になるのは台湾と韓国。明らかにトランプのアメリカが「守る意志を弱めてきた場合には、危険な力の空白が生まれる。こうなったら、尖閣とか南シナ海というような問題は、まだ枝葉末節に思えてくる。とにかく台湾と韓国だ。

▼台湾は「脱原発」や「中華民国のアイデンティティー」などと、民進党色を出そうと蔡英文主席が頑張っているが、トランプ政権登場という文脈からは、何ともズレまくりという感じがする。韓国に至っては、力の空白への恐怖、つまり大統領の求心力と、米国のプレゼンスの双方が空白化することへの危機感が薄すぎる

▼経済だが、とりあえず円安ドル高で来ているが、あくまで「トランプ=強いドル」という思惑から来ているのではないか? トランプは、確かに連銀批判を繰り返しており、そうなると緊縮とドルの高値誘導になるのかもしれないが、必ずしもそうとも限らない。緩和継続も十分にある。公共インフラ拡充で内需喚起という政策は、要するに緩和とセットでバブル許容政策にというメッセージにも取れるからだ。12月の連銀の利上げ、もしかしたら見送りかもしれない。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。「ニューズウィーク」日本版にてコラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」を連載。また、メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。

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