和食はもはや絶滅種。京都の老舗料亭「菊乃井」が挑む日本料理革命

 

“見て盗め”はもう古い~「菊乃井」の人材育成術

京都のメインストリートの一つ、祇園の花見小路通。若い女性や外国人観光客が目立つ観光スポットだ。そんな街の喧騒から一歩離れた場所に、菊乃井の京都・本店はある。

厨房では総勢29人の料理人たちが一心不乱に働いている。ただし、上の人には物も言えない料理界の堅苦しい上下関係はここにはない。「総料理長と外国人の研修生が一緒に仕事をする店はうちぐらい」と、村田は言う。

もちろんそれぞれの役割はあるが、できることはみんなでやる。これが菊乃井のやり方。こんな体質だから村田流・人材育成法も他とはちょっと違う。

新人の岡田治倫、20歳。今年の春、調理師学校を卒業し菊乃井に入社した。現在の役割は魚の鱗や内臓を取り除く下処理。その作業に目を光らせるのは先輩の古谷望、23歳。菊乃井ではこのように、先輩が新人の専属コーチとなり、マン・ツー・マンで基本を教え込んでいく

「ささら」という魚の内臓を取り出して綺麗にする道具の使い方を指導。道具の持ち方など、細かいところまで丁寧に教えてくれるから、新人は最短距離で前に進める

「勉強したくて店で働いているので、先輩が丁寧に教えてくれるのはありがたいですね」(岡田)

このシステム、実は教える先輩にもプラスになる。

分からないと言うと先輩として威厳が保てないので勉強は常にしておかないと。自分のためにもなるし、若い子のためにもなる」(古谷)

朝の仕事が終わった岡田は、新人たちの仕切り役の料理人の元へ。賄いのメニューの相談だ。菊乃井では賄いは新人が作る。この日のメニューは筑前煮に。お客の料理を作れない新人にとって、賄い作りは一番の修行の場。ここで日本料理の知識や技術を実践的に身につけるのだ。

出来上がった筑前煮をコーチ役の古谷がチェック。そしてここからがドキドキ。村田の試食が待っているのだ。

賄いの仕事を終えた岡田は休憩時間、時間を惜しむように事務所に向かった。そこにあったパソコンで見始めたのは、菊乃井大全集というファイル。中には菊乃井で出されている全ての料理のレシピが入っている。

例えば「サワラ鍋」のレシピの欄を見ると、材料の種類とその正確な量。さらには調味料の量や作る際の調理時間まで明確に記されている。菊乃井のスタッフなら誰でもこのレシピが見放題。つまりやる気さえあれば村田の味がいくらでも覚えられるのだ。

岡田の将来の夢は「自分の店を持って、星つきのレストランにすることです」と言う。

~村上龍の編集後記~

優れた料理人には独特の雰囲気がある。修業時代の苦労の痕跡がなく、威張ることもなく、事業展開に対しては慎重だが、フットワークは軽い。考えてみれば当然だ。

自他共に認める才能と実績があるので威張る必要はなく慎重な熟考が軽快な行動に結びつく

村田さんには「和食を世界に」という目標がある。今や世界は「遠い海の向こう」ではない。料理に限らず、世界水準を目指さなければ国内でも衰退する。

和食は、遠からず、文学や映画や美術や音楽と同じように、国を象徴する文化となっていくだろう。

 

 

<出演者略歴>

村田吉弘(むらた・よしひろ)1951年、京都の老舗料亭「菊乃井」の長男として生まれる。立命館大学卒業後、名古屋の料亭「加茂免」で修業。1993年、株式会社菊の井代表取締役社長に就任。2004年、「赤坂菊乃井」開店。

 

 

image by: 菊乃井公式HP

source:テレビ東京「カンブリア宮殿」

テレビ東京「カンブリア宮殿」

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