築地をすっ飛ばし、魚業界に革命を起こした「羽田市場」誕生秘話

 

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鮮魚の流通革命、「朝獲れ」の仕組み

北海道はカレイの水揚げ日本一。中でも紋別のカレイは味がよく「紋別カレイ」というブランドにもなっている。クロガシラガレイは身が柔らかくて美味しい、紋別カレイを代表する一つだ。

朝6時、船が港に帰ってきた。通常ならここで競りにかけられるが、クロガシラガレイはそのまま箱詰めされトラックに積み込まれた。紋別漁港を出発、向かった先は空港だ。鮮魚の流通は通常陸送だが、羽田市場はその常識を覆し、空輸している。

午後1時45分、カレイを載せた飛行機は東京に向けて飛びたっていった。羽田空港に降りたったのは2時間後。空港内の貨物ターミナルにある羽田市場に到着。オホーツクの海からはるばる1000キロ。その日のうちにクロガシラガレイが着いた。

休む間もなくカレイは他の魚とともに箱詰めされる。羽田市場では一匹売りはせず商品は超速鮮魚ボックスという詰合わせのみ。中身は日によって違うが、6キロの魚が入り一箱1万800円。このセットが1日平均1000店舗にスピード配送されている。

午後5時過ぎ、紋別のカレイが羽田市場を出発。そして午後6時、到着したのは銀座の海鮮居酒屋「魚然」銀座八丁目店。紋別で水揚げしてからまだ12時間だ。

届いたカレイはそのまま刺身になった。カレイは足が早いので煮付けや唐揚げにすることが多いが、「朝獲れ」だから刺身で食べられる。

通常の流通では、魚は水揚げされてから陸路で地方市場、中央市場を経由して店舗に入る。客が口にするのは3日目の魚。一方、羽田市場はその日揚がった魚。鮮度で大きな差がつくのは明白だ。

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スーパーにも登場の「朝獲れ」~獲った魚を高く売る方法

新たな流通の仕組みで注目を集める羽田市場。トップのCSN地方創世ネットワーク社長、野本良平はこの日、秋田の漁港に来ていた。人だかりの中で野本がやっていたのは魚の締め方講座。血抜きした魚の神経の抜き方を漁師に指南していた。

まず頭に穴を開けておき、お尻からエアーを吹き込む。すると神経が出てくるのだ。

「神経が残っているとATPという旨み成分が消えてしまう。神経を抜くと旨み成分が溜まったままになるので」(野本)

あまり知られていない神経抜きだが、やっておくと魚の旨味が保たれる。漁師たちは魚を獲ることに関してはプロだが締め方などは意外と詳しくないのだと言う。そこで野本はこうした講習会で、魚の商品価値を上げる方法を教えているのだ。

「もうたくさん獲る時代ではない。獲った1匹をいかに高く売るかを、漁師さんが自ら考えて手間をかけてやっていく」(野本)

日本の水産業は、水揚げ量の減少、価格の下落、燃料費の高騰と、三重苦に喘いできた。沿岸漁業の漁師たちの平均年収はおよそ280万円。これを上げていかなければ水産業の未来はないと、野本は考えている。

「うちは市場の最高値に合わせますよ、と。その代わりいいものを出してください。変なものを出したら二度と買わないくらいの、緊張感のある取引ですね」(野本)

緊張感のある取引。その証は配達する箱にもあった。箱の蓋にはシールが貼られている。そこには魚の水揚げ港に加え、生産者の名前、漁法まで明記しているのだ。

誰がいつどこでどのように獲った魚か消費者にも付加価値として提供する。手を抜いたらお客がつかなくなる。我々の目指すのはそんな“三方良しの関係です」(野本)

羽田市場の魚が食べられるのは飲食店だけではない。都内のスーパーでも扱っているところがある。大田区の「プレッセ田園調布店」にある羽田市場のコーナー。そこに並んでいたのはアヤメカサゴにシマガツオ。東京ではまず見かけない魚だ。お客の方も心得ていて、羽田市場の魚が入る時間に合わせて買いに来ていた。

バイヤーの並木佑二さんは「地方に行かないと鮮度上、絶対に食べられない刺身が東京でも味わえる。大変ご好評いただいています」と言う。

こんな魚が手に入るなら取引する飲食店は増える一方。開設から1年と少しで5000店を超えた。

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