疫学調査の限界
さて、ここでみなさんに一つ賢く医学ニュースを見るコツをお教えします。ニュースを見ていると、本当に医学的に証明されたことと、疫学的に調べた結果がごっちゃになっています。医学ニュースを見た時には、それが実験的に証明されたことなのか、疫学調査なのかを区別することが重要です。疫学調査のデータはあくまでも問題提起であって、結論ではないのです。もっともわかり易い区別の仕方は、「100人を対象に調べた結果」とか「~を習慣としている人を対象にした結果」とか「~に住んでいる2000人を調査したところ」のような記述があるものは疫学調査です。
よくある例として、「ワインを飲む習慣のある人は、ビールを飲む習慣の人よりも心臓病罹患率が低い」という統計(疫学)データがあったとします。ここで「そうか!ワインのが良いのか!」と鵜呑みにしてはいけません。かといって、「ワインのが良いなんてことはない!」と否定してもいけません。あくまでも、「ふーん」と中立でいることです。なぜなら、こういった疫学調査の多くに限界があるからです。
ワインを飲む習慣がある人の心臓病罹患率が低いというデータが本当だったとしても、そのデータだけでは原因がワインにあるとは結論づけられないのです。もしかしたら、ワインを飲む人はビールを飲む人よりも健康的な食事をしているかもしれません。ビールを飲む人は揚げ物などを好む傾向があるかもしれません。ワインを飲む人はそもそも酒量が少ないかもしれません。ワインを飲む人の方が、もしかしたら健康に意識が高く、ライフスタイルそのものがビールを飲む人とは異なるかもしれません。このように、ワイン以外にもデータに影響を及ぼす無数の要素が存在するということを忘れてはならないし、すべての要素を公平にして調査するのは疫学調査では無理だということも知っておく必要があります。それが疫学調査の限界なので、必ずフォローアップとして医学的・実験的に検証していくわけです。そういったデータの総体があってはじめて、「ワインは心臓病予防に効果があるか」どうかが検証できるわけです。
いかがでしたでしょうか。少し小難しい話になりましたが、ねこの名誉にかけて、曖昧な研究で書かれた悪記事を斬ることにしました。今後もこのようなニュースがあったら、皆さんの代わりに僕が元となる論文を見て検証しますので、どうぞお便りください。
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