2つ目に当面の政治課題ですが、健保改革は当分無理になったので、今度は税制改正、つまり富裕層と法人向けの大減税を中心とした制度改革に向かうでしょう。ですが、景気が若干弱含みである中で、政策として無謀としか言いようがないわけで、現行案が通る可能性は少ないでしょう。
3つめにスチーブ・バノンですが、彼は彼なりの目標(経済ナショナリズムの実現など)を持っているために、簡単には権力を手放すことはしないと思われます。ただ、スカラムッチと比べて、ケリーはもっと老獪であるのなら、ある意味で「忘れられた白人層の怨念」を代表しているバノンを利用しこそすれ、除去は考えないのではないかと思われます。
4つ目として、トランプの放言はここへ来て度を越してきています。「軍隊からトランスジェンダーを追放する」という発言は軍に事実上否定され、「警察は被疑者の取り調べでもっと締め上げていい」という発言には、全国の警察の現場から「怒りの反発」が出てきています。ですが、問題は怒りを買っているということではなく、「発言と政策のずれ込み」が決定的に拡大している、つまり、誰も大統領の言うことは信じないという状態に近いわけで、これは深刻な状況です。この辺をケリーが抑えられるのかは、大きな課題です。
5つ目に「ロシア疑惑」ですが、ここ数週間、報道としては沈静化しています。ですが、ミュラー特別検察官の捜査は確実に進展しています。そんな中で、新任のケリー首席補佐官は「コミー前FBI長官を解任したのは誤り」だとして、かなり強く怒っていたという報道が出ています。仮に真実であれば、興味深い話です。
6つ目に、ここへ来て緊迫化している北朝鮮情勢ですが、当面はアメリカの強硬策はないでしょう。まず、中国が次期共産党常務委員の人事大詰めという段階で、妙な動きをすれば習近平の顔を潰すことになりますが、そんなことはトランプはしないと思います。また、政権中枢の権力を掌握したと見られる首席補佐官のケリーは海兵隊の出身です。海兵隊というのは、1950年の朝鮮戦争で無謀な北伐を強いられた中で、悲惨な撤退戦を戦った記憶を持つ組織です。軽々に強硬策に同意するとは思えません。31日(月)には、トランプ=安倍の電話会談があったようですが、ここでも強硬策は自制ということが確認されていると思われます。
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