条約破棄の効果は「限定的」
【毎日】は1面トップと3面の解説記事「クローズアップ」。見出しから。
1面
- 米、INF条約離脱
- トランプ氏表明 「新型核を開発」
3面
- タガ外れる核軍縮
- 中国脅威で情勢激変
- 露「呉越同舟」の一面も
- 広島・長崎 被爆者怒り
- 北朝鮮非核化に悪影響
- 平和に逆行し許せない
- 日本政府、対応に苦慮
uttiiの眼
《毎日》1面の記事は他紙と少し雰囲気の違う記述になっている。まず、中国は保有するミサイルの9割が中距離弾道ミサイルで、米国は中国が「空母キラー」と呼ばれる弾道ミサイルの整備を進めることに強い危機感を抱いているとする。これに対抗するには、条約からの離脱が必要というのがトランプ政権の主張だ。さらにロシアに対し、米国は、条約で禁止されていないミサイルの「研究」に既に着手し、核戦略の指針「核態勢見直し」(NPR)には海上発射型核巡航ミサイルの新規導入を盛り込んだりして、揺さぶりをかけていた。だがロシアは条約違反を重ねて否定したため、今回の離脱表明につながったという理解が示されている。
6面記事は、米露中各国の思惑について、いわば「大人の議論」を展開している。4紙の解説中、最も有益かつ興味深い内容。
まず、中距離ミサイルについては、中国やインド、パキスタンに加え、北朝鮮やイランも現在は保有すると指摘。「条約に縛られる米露だけがこの種のミサイルを保有しないという皮肉な状況が続いていた」と指摘している。そして、2007年当時のイワノフ露国防相はゲーツ米国防長官(当時)に対して、「西側に展開するつもりはないが、南と東、つまりイラン、パキスタン、中国向けに配備したい」と打診していたという驚くべき話。因みに、ゲーツ氏は「条約を破棄したいならご勝手に。米国は支持しません」と返答したという。ロシアは、ミサイルを保有する周辺諸国に対するものとして、中距離ミサイルの開発を続けていたということになる。
さらに米国にとっては、条約破棄の効果は「限定的」で、そもそも条約が禁止しているのは地上発射型だけ。潜水艦を含む艦船、あるいは航空機から発射するものは対象外で、しかも米国はその種の兵器を大量に保有している。「条約を維持したままロシアへのけん制を続けた方が効果的との見方も強い」と記者も訝っている。
それでも、トランプ氏が「条約破棄」を声高に表明することの真意はどこにあるのか。この疑問への回答となるのは、やはり、《読売》が指摘していたように、米中間選挙がらみで「『米国第一の』外交方針の実行力をアピールする狙い」ということではないかと思われる。
勿論、核軍拡の亢進という可能性は高いだろうが、この問題を考える上で「冷戦思考」は脱却した方がよさそうだ。