水戸黄門と下町ロケットがウケるほど濃く現れる日本社会の闇

 

では、学校という、古くからあるピラミッド組織ではどうでしょうか。私は学校現場に足場を置いて、さまざまな人間関係を見てきました。誤解を恐れずに言えば、教育、教職員という職域は、感情のふり幅を伴うストレス空間なのです。

もともとは不登校やひきこもり、いじめの相談など心のケアのために採用されたのがスクールカウンセラーでした。しかし、スクールカウンセラーの相手は生徒だけではなく教師からの相談も後をたちません。悩む教員たちが、わらをもすがる思いで「ここだけの秘密」と上司との軋轢や教師間の人間関係を相談してくるのです。実は相談している教員も「解決する」とは思っていません。ただ、愚痴や不満を聞いてもらいたいだけなのです。その都度「心が救われた」と感謝を述べて、また教育現場に戻っていかれます。

このような悩み相談に対してカウンセラーは「リフレーミング」を提案します。つまり、物事の見方の枠組みを少し変えてみましょう、と提言するのです。例えば、「たしかにパワハラ校長ですね。他の教員などがいる人前で繰り返し、繰り返し、怒鳴る、叱責する、真っ赤な顔で怒る、その時々で言うことが異なる。その校長先生は、きっと体育会系で熱くて、仕事に真面目で少しでも厳格な仕事をしたいからではないかしら。相手の立場にたって見方を変えるといいかも」と。

しかし、カウンセラーさん方の努力もむなしく、統計の数字が物語っているように「うつ病」など精神疾患で休職する教員は後をたちません。やはり、最悪のことが起きない限り、「長」がつく人の行動変容を促すことは困難です。パワハラ裁判に訴えるなどの事例も生じています。先のパワハラ校長の事例は、人事権がある教育委員会の部署では解決できず、地方自治体への申請を経由して、横からのアプローチの結果、改善されました。パワハラ校長の多くは、手腕のある校長と教委からは認識されていることが多い為です。このような校長の指揮下では、実際のところ、教員のトラブルも、いじめ問題も解決されません。部下からの信望が無いうえ、調整能力なき校長のもとでは何も解決されないのです。先生たちは叱られないよう萎縮してミスが無いよう、何もしないだけでした。

ここで一般論として、まとめてみましょう。第一の問題は、日本のカウンセラーは、欧米と異なり、主に医療系、病院等のニーズで求められ育ってきました。ですから、弱った人へのケアはとても得意ですが、攻撃的な人への対処のスキルはつたなく、ほとんど効果を有していません。しかも非常勤という不安定な立場が多く、学校組織内では全く権限がありません。不安や苦痛には寄りそってくれるけれども、「いじめの解決をしてくれる人ではない」のです。このことを、相談する側の保護者の皆さんには知っておいていただきたいと思います。

心のケアで「リフレーミング」を教えるのは、まだ傷の浅い場合や予防段階こそ効果があります。既に起こった深刻ないじめ問題では、「泣き寝入りしろ」と被害者に言っているのと変わらないことになります。それは、小中学生の子どもには、とても耐えられないことです。

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