米朝首脳会談決定も、交渉のプロが「成果は出ない」と断じる理由

 

先の米朝首脳会談後、戦略転換した中国の狙いとは?

1つ目は、中国自身が抱える米中貿易戦争と南シナ海を巡る問題と絡んで、アメリカに対して中国が持つ北朝鮮への影響力を、対米交渉における駒として用いたいからと言えます。言い換えれば、「もし北朝鮮との交渉で成果を上げたいのであれば、貿易戦争のみならず、南シナ海問題に関しても対中攻撃を止めよ!」というメッセージでしょうか。

2つ目は、北東アジア地域の今後を決める場に、当事者として参加し、結果に対してきちんと立場を反映させたいと切望しているからです。それは、朝鮮戦争の終結とその後の朝鮮半島の姿を決定する場で、署名国の一つとなるということです。

6月12日の会談後、北京にとってショックだったのは、朝鮮戦争の終結と平和条約締結という南北朝鮮の夢の実現が優先され、中国抜きで、米・朝・韓の3か国で決めてしまう可能性が、実際に有力だったことでしょう。

現在、見える過剰なまでの北朝鮮への肩入れの理由は、ここにあると考えます。今月末に開催される米朝首脳会談に臨む北朝鮮側からの立場の一つに、「朝鮮戦争の終結と平和条約締結に関する協議に中国も当事者として迎え入れる」という内容が示されているのは、北朝鮮の後ろ盾としての中国の存在の証です。

アメリカにとっては、条件さえ揃えば、米韓中朝の4か国を当事者として朝鮮戦争の終結と平和条約締結を行うことについて合意することは、さほど困難ではないでしょう。その条件とは何か?南シナ海問題に関わる米中間での取り決めが出来るか否かですが、これについては、また別の機会に詳説します。

3つ目は、北東アジア地域および世界情勢におけるロシアへの牽制という側面です。北朝鮮建国以来、エリートはソ連に留学して教育を受け、同時にソ連の共産党中枢とのネットワークを築くというのが定石でした。また、北朝鮮の核開発を可能にしたのは、核技術を持つパキスタン・イランとのつながりですが、これも過去にソ連がお膳立てをしたものでした。

当時は冷戦時代で、朝鮮半島の北緯38度線を挟んで米ソが睨みあっていましたので、その“砦”を守るためにソ連は北朝鮮の核開発をバックアップするという理由があったわけです。しかし、ソ連崩壊後、ロシアがその後継国となりますが、10年にわたる経済的な苦境から北朝鮮の面倒を見ることができなくなったことに付け込んだのが、中国です。

外交的には金日成氏も、金正日氏も、そして今は、金正恩氏も中国を重要視していますが、その背景には、ロシアが立ち直る間に起こった中ロ間のパワーバランスの変化があるのではないかと考えています。

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