時間をかければ一生懸命と評価される社会と正反対な虫採りの世界

 

最初に採った玉城君はカミキリムシの採集を始めてまだ日が浅く、そういう先入観がなかったのが、快挙に繋がったのだろう。採ったのは、大きなメスで、私と松村雅史君が玉城君の名を冠して新種(Necydalis tamakii)として記載した際にホロタイプ(種を代表するただ1頭の標本)に指定して、現在は琉球大学の博物館(風樹館)に収まっている。このメスはシバニッケイの花に来ていたというが、ネキの採りかたで最も一般的なのは飛んでいるのを採ることである。

発生木が分かっている場合は、この木の前で待っていれば、木から新成虫になって脱出してきたり、産卵や交尾のために飛んできたりするので、捕えることができるが、発生木が分からない場合は、偶然飛んでいるのを採るしか良い方法がない。ヤクシマホソコバネカミキリもアマミホソコバネもオキナワホソコバネもほとんどの個体は飛翔中を捕えたものだ。飛翔中の個体はほとんどオスなので、メスは滅多に採れない。

オオホソコバネ、クロホソコバネ、ヒゲジロホソコバネ、トガリバホソコバネ、アイヌホソコバネ、オニホソコバネなどといった本土産のネキは、発生木あるいはその周りで採れることが多いので、オスもメスも同じくらいの数が採れる。唯一の例外はカラフトホソコバネカミキリで、オスは珍品で滅多に採れない。屋久島に棲息するオニホソコバネカミキリは発生木が分からないことが多く、飛んでいるのはほとんどオスでメスは大珍品である。

それで、屋久島、奄美、沖縄などの南の島のネキを採集するためには、飛んできそうなポイントで網を構えていつ来るかわからない獲物を待つことになる。こういう虫採りは、努力すれば採れるというものではなく、運と腕が必要である。経験や勘は飛んできそうな場所の選定くらいにしか役に立たない。立ち枯れの産卵木を探して採るオオホソコバネやヒゲジロホソコバネの場合は、たくさん飛んでくる木かどうかの判断には経験と勘が必要だが、飛んできて木に止まっているネキを採るのに、大した技術はいらない。

しかし、飛んでいるネキを採るには動体視力、瞬発力、捕虫網を捌く技術などが必要で、年寄りが捕えるのは容易ではない。日本産ネキの中でも最珍品のヤクシマホソコバネカミキリを最も沢山採った、ネキ採りの名人・伊藤正雄君は20mも先を飛んでいるネキが見えるという。体長が2~3cmのハチに擬態したカミキリである。普通の人はネキが飛んでいても、小さい虫が飛んでいるということくらいしか分からない。

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