米中イランと曲者トルコ。中東を最大の危機に陥れる各国の思惑

 

ここでいう“サウジアラビアの特殊事情”とは、「アラブ(スンニ派)の雄として、表立って同胞パレスチナ人を抑圧するイスラエルとの和解を支持できず、公式には“まずはパレスチナ問題の解決が先決”との立場を取らざるを得ない」というものです。

まだすべてのスンニ派諸国がこの和解に乗っかっていない中、サウジアラビアが率先してサポートできないという事情があるようです。

しかし、先日、イスラエル高官御一行様を乗せたイスラエルの国営El Al航空機がTel AvivからUAEの首都Abu Dhabiに向かう際、これまで禁じてきたサウジアラビア領空通過を黙認したことで、「今回の電撃和解ディールを暗に歓迎している」様子を示したのではないかとの憶測が飛んでいます。

もしそうだとしたら、サウジアラビアがイスラエルとの和解と国交正常化に走るのは最後だとしても、イスラエルとアラブ諸国全体の和解への動きが加速することになると考えられます。

しかし、その前に立ちはだかるバリアが、イスラエル側にあるアラブ諸国への歴史上拭いきれない不信感です。

今回UAEとの電撃和解を演出して見せましたが、その仲介をしたアメリカ政府がUAEに対してF-35戦闘機を売却すると発表した際には、イスラエル政府は頑なに拒否するとの声明を出しています。

今後、他のアラブ諸国との“和解”、特にサウジアラビアとの和解が進んだ暁には、全体的な和解に繋がるのかもしれません。

それを必死で阻止しようとしているのがイランとトルコです。

イランについては、この和解はあからさまに自国に対する包囲網が広がり、強化されることを意味し、シーア派同胞のアラブ諸国での立場を危うくし、イランの国家安全保障上の危機も高めることになります。ゆえにイランとしては、近状状態が続くにせよ、現在のイスラエルとの対峙で生まれている緊張状態の現状維持を目指すことで地域における勢力図とパワーバランスを保ちたいと願っています。

この目的にうまく乗ったのが、アメリカとの世界的なパワーゲームを戦う中国です。

「ともにアメリカからの嫌われ者」として、イランと中国との急接近が目立つようになってきました。特に25年間にわたる経済と安全保障上の戦略パートナーとなるべく、中国からはエネルギー部門に合計2,800億ドル、輸送・通信・製造部門に対して1,200億ドルがイランに対して融資され、その見返りとして、イランは中国に対して安価での原油の提供を行うという相互に恩恵を受けることが出来るディール(Win-win?)を急ぎ締結しようとして、アメリカを中心とする中国とイラン包囲網へのcounter balanceを築こうとしているようです。イランの高官曰く、「そのためには、イランは中国の一帯一路にもフル参加する」とのことで、中国との接近を強めることを今は主眼に置いているようです。

それに加えて起きているのが、アメリカが離脱した核合意のメンバー国や国連機関との連携の強化の動きです。

アメリカ、イスラエル、スンニ派アラブ諸国によるイラン孤立化工作のにおいを嗅ぎ取り、イランは、これまで抵抗してきたIAEAによる査察を受け入れる方針を示し、またウィーンで核合意メンバーである英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国と協力し、皆から「合意を離脱したアメリカにスナップバック(対イラン制裁の復活)を発動する権利はない」という言質を引き出して国際社会との協調のイメージを前面に押し出しています。

実際にイランの窮状にシンパシーを示す国も多く、中国の影響が及ぶアフリカ諸国や、イランも“属す”アジア諸国は、イスラエルとUAEの和解を歓迎しつつも、行き過ぎたイラン孤立策には反対しています。この中東の地でも、米中双方が仕掛けるブロック化・分断化が顕著に現れている証でしょう。

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