二度の閉館危機を乗り越えた奇跡。昭和の香りただよう映画館「川越スカラ座」物語

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江戸から昭和初期にかけての旧き佳き街並みが残り「小江戸」の愛称で知られる、埼玉県では「秩父」と並ぶ一大観光地・川越(かわごえ)。

コロナ禍前は、日本人のお年寄りの団体観光客やインバウンドの外国人観光客で大いに賑わい、食べ歩き用のフード片手にブラブラ歩く人で足の踏み場もないほど混雑していましたが、コロナ騒動後は、昨今のレトロブームも手伝ってか、日本の若者世代の姿が目立つようになり、休日にはレンタル着物を身につけた女性たちが散策を楽しむなど、街の様子も随分と若返りました。

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川越名物「蔵造り」の街並み

蔵造りの商家や洋館、看板建築などを改装した土産物店などが建ち並ぶ賑やかな目抜き通りを抜けて、中心街の路地へ一歩足を踏み入れると、江戸の風情を今に伝える「小江戸・川越のシンボル」が見えてきます。それが、かの有名な「時の鐘」(ときのかね)。

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川越のシンボル「時の鐘」

江戸時代初頭から城下町・川越に時を告げてきた鐘つき堂「時の鐘」(現在は4代目で、明治26年の大火後に再建されたもの)は、観光地・川越の中でも撮影スポットとして有名なエリア。休日ともなれば「さつまいもチップス」とスマホを持った若者たちが、塔屋をバックに自撮りする光景がよく見られます。

そんな「時の鐘」から歩いて数分の裏路地に数十年以上もひっそりと佇んでいる、昭和風情ただようレトロな映画館があることをご存知でしょうか?

それが今回ご紹介する映画館「川越スカラ座」です。川越散策の時に偶然、路地を入ってこの映画館を見つけた人もいらっしゃるのではないでしょうか。

市民に愛される街の映画館「川越スカラ座」

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明治38年(1905)に寄席「一力亭」としてスタート、昭和15年(1940)に現在の原点となる「川越松竹館」という映画館に代わり、以来80年以上に渡って川越市民の目を楽しませてきた川越スカラ座ですが、過去に一度、閉館の危機があったのです。

先代の支配人が閉館を決めたのは2007年5月のこと。しかし、子どもの頃からスカラ座で映画を見て育った「映画館を存続させたい」という地元の人々によって賛助金が集められて復活を果たしました。

そんなスカラ座は、2015年よりメルマガ『川越スカラ座メールマガジン【有料版】』を弊社「まぐまぐ!」を使って発行しています。この復活劇を成し遂げた際に苦労したことは何だったのか、現在も14年に渡って営業を続けているのはどんな方々なのか、そして有料版のメルマガを発行するきっかけは何だったのか、緊急事態宣言の明けた10月にMAG2 NEWS編集部が詳しいお話を伺いに行って参りました。

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『川越スカラ座』支配人・舟橋一浩さん、番組編成&メルマガ担当・飯島千鶴さんインタビュー

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川越スカラ座のロビーにて。左から、支配人の舟橋一浩さん、番組編成とメルマガ・イベント・SNS担当の飯島千鶴さん。上映中の映画『浜の朝日の嘘つきどもと』ポスターの前で

──いつも毎週金曜日のメールマガジン発行ありがとうございます。映画館が有料メルマガを発行するのは珍しいケースだと思いますが、まずはメルマガ発行のきっかけからお聞きしてもよろしいでしょうか?

飯島千鶴さん(以下、飯島):初めは前任者が別のプラットフォームから無料メルマガを発行していたんですが、退会や登録の管理を自分たちでしなければならず大変で、これは「まぐまぐ!」さんにお願いした方が楽なんじゃないかということで、私が2014年から「まぐまぐ!」を使って無料メルマガの発行を始めたんです。そのちょうど1年後の2015年に有料メルマガを始めたんですが、そのきっかけが自民党の河野太郎議員の発行するメルマガを知ったことでした。河野議員がまぐまぐから『ごまめの歯ぎしり』という無料メルマガと『ごまめの歯ぎしり 応援版』という、無料版と中身はまったく同じだけど有料版を購読することで応援できるメルマガを出していることを知って、それにヒントを得て「川越スカラ座を資金面で応援してもらえるメルマガを同時に出したい」とまぐまぐさんにお願いして『川越スカラ座メールマガジン』という無料版と、『川越スカラ座メールマガジン【有料版】』を発行することにしました。有料版は先行予約枠などの特典をつけることで差別化しています。

──何と有料版のきっかけは河野太郎議員のメルマガだったんですね。そもそも2007年に一度は閉館した川越スカラ座の営業を引き継ぐことになったきっかけは何だったのでしょうか?

舟橋一浩さん(以下、舟橋):私も飯島も幼い頃から川越市で育ったんですが、この街にはスカラ座ともう一つ「ホームラン劇場(シアターホームラン)」という映画館があったんです。その映画館が2006年2月に閉館してしまい、川越に残ったのが当時このスカラ座だけになってしまいました。のちにシネコンが南古谷というところにオープンしたりはするんですが、昔からある映画館はスカラ座のみになったんです。そんな中、先代の支配人とイベントをきっかけに知り合いまして、支配人がご高齢のため映画館の存続が難しいことを知りました。2007年5月に一度スカラ座は閉館したんですが、すぐに地元のスカラ座を愛する仲間たちと映画館の営業を引き継ぐために奔走しまして、まずはスカラ座を運営するためのNPO法人「プレイグラウンド」を立ち上げて、いろいろな方々のご協力によって復活させるための賛助金も集まり、閉館から3ヶ月後の2007年8月に復活させることができました。

──わずか3ヶ月で復活とは驚きました。

舟橋:私はプレイグラウンド設立時の理事のひとりで、当時は代表ではありませんでした。そして設立当時の理事たちは2011年の東日本大震災の時に一度閉館を決めたんですが、復館当時から関わっている現場スタッフと飯島が継続を希望し、私に残ってほしいと説得したんですね。そこで私がNPOの代表と支配人になって、飯島たちが辞めた理事たちの代わりに理事になって現在に至る、という感じですね。

飯島:3.11を機に閉館すると言われたときはショックを受けたものの「しょうがないかな」という気持ちも私にはありました。でも、最初から現場で働いている私より15歳も下の女性スタッフの「応援してくれているお客さんをがっかりさせたくないし、震災で心細い思いをしている一人暮らしのシニアのお客さんがうちに来て顔見知りのスタッフの顔を見たら少しは安心するのでは」という言葉を聞いて、それなら付き合おうじゃないかと思った次第です(笑)。ここまで続けてこられたのは彼女のその発言があってのことだったと思います。当時は、まだ先代がご存命で、私ともうひとりのスタッフがスカラ座を続けたいと話すと喜んでくれました。

──3.11の時にも閉館危機があったんですね。これも皆さんの「スカラ座を存続させたい」という強い思いがあったからですね。スカラ座さんの他館ではあまりかからないがマニアックすぎない絶妙なプログラムは飯島さんの編成でしょうか?

飯島:はい、今は私が一人で番組編成を担当しています。私は復館時に募集していたボランティアに応募し、しばらく無償ボランティアとして関わっていましたが、有償ボランティアからアルバイトスタッフを経て、当時の番組編成担当が出産で辞めることになって、私が引き継ぎました。

──上映中の高畑充希主演『浜の朝日の嘘つきどもと』(10月15日に上映終了)は、スカラ座がロケ地として映画の中に登場しますが、映画のロケ地になることは多いのでしょうか?

飯島:そうですね、だいたい映画製作会社から話が来るんです。亡くなった志村けんさん主演予定で沢田研二さんが代役を務めて話題になった『キネマの神様』もスカラ座が映画館としてロケ地に使われました。『浜の朝日〜』の登場シーンは一瞬なんですけど、『キネマの神様』はガッツリ使われているんです。今年の11月13日から2週間、ここスカラ座でその『キネマの神様』を上映しますので、よかったら観に来てください(笑)。スカラ座のスタッフたちもエキストラで出演しています。

──あの話題作でもロケ地に使われているんですね。ロケ地の映画館で『キネマの神様』を観られるのは本当にぜいたくですね(笑)。

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『キネマの神様』撮影時の様子。山田洋次監督や出演者たちとの貴重なショットが、ロビーに飾られているパネルで見ることができる

舟橋:都内近郊に古い映画館がうちくらいしかないので、ロケ地によく利用されるんだと思います。前は三軒茶屋にあったんですが、そこが閉館してからは都内周辺に残っている古い映画館はうち以外だと地方まで行かないとないですね。

──上映中の『浜の朝日の嘘つきどもと』は、閉館寸前の映画館を復活させるというお話ですよね。まさにスカラ座も閉館から復活した映画館ですから、この映画を観るお客さんからの反応も違いますか?

飯島:実は、お客さんの反応がむちゃくちゃ良いんですよ。上映が終了した後に、イベントの時以外にはめったにない拍手が起きたり(笑)、いつもよりお客さんも入っている感じですね(現在は124席のうち62席のみ使用)。『浜の朝日〜』の中では、スカラ座は客席で映画を見ているシーンでロケ地として登場するだけなんですが。

舟橋:やはり映画の内容とシンクロするものがあるんでしょうね(笑)。

──映画を上映する側としても、イベントでもないのに拍手の反応があるというのは嬉しいですよね。2020年は映画館もコロナの影響で休業になっていましたが、その後の経営は厳しいのでしょうか?

舟橋:最初の緊急事態宣言の時は休業させられたのでどうなるかと思いましたが、その後はあまり大きな影響はなかったですね。もともと小さな映画館なので売上もフラットな感じでした。税理士さんからも「思ったより落ちていないから、このまま行けそうだ」と言われました(笑)。

飯島:最初の宣言の時は、多くの賛助会員のみなさまに助けられましたね。わざわざ賛助会員費を直接もってこられた方もいました。もともと映画館存続のためのグッズをネット販売しているんですが、過去最高の売上になりまして、多くの方々から励ましの声が届いて感動しましたね。「ミニシアターエイド」の動きもありましたし。

──これからも素晴らしい映画をここ川越で届けてください、応援しております。そして読者のみなさまには、有料メルマガの会員になることで川越スカラ座を応援することができますので、メルマガ購読をご検討くださいとお伝えしたいです。本日はお忙しい中ありがとうございました。

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スカラ座を訪れた映画監督や俳優、映画評論家のサインが壁を埋め尽くしている。入江悠監督や是枝監督、井筒監督、町山智浩氏のサインも

昭和38年頃から変わらないという映画館の内装は、どこか懐かしく、そして温かみを感じさせる空間でした。かつて浅草や池袋へ観に行った映画館の面影が、ここ「小江戸」川越に残っていることに感動しつつ、こうした映画を愛する地元の人々からの支援によって存続していることにも感動させられました。川越スカラ座がロケ地として登場する『浜の朝日の嘘つきどもと』は、10月15日(金)まで10:30~12:29に上映されています。東京から電車ですぐの観光地「川越」で、昭和の雰囲気を味わってみてはいかがでしょうか?

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映画『浜の朝日の嘘つきどもと
福島県・南相馬にある映画館「朝日座」に、茂木莉子と名乗る女性が現れる。経営が傾いた「朝日座」を立て直すために東京からやってきたというが、支配人・森田保造は突然のできごとに驚きを隠せない。すでに閉館が決まり打つ手がないと諦めていた森田だが、見ず知らずの莉子の熱意に少しずつ心を動かされていく。(脚本・監督:タナダユキ、主演:高畑充希、大久保佳代子など 上映時間:114分 DCP上映) 

「川越スカラ座」公式ホームページ

『浜の朝日の嘘つきどもと』公式サイト

● 『キネマの神様』公式サイト

川越スカラ座この著者の記事一覧

明治38年に寄席として誕生し、昭和15年に映画館に生まれ変わりました。平成19年から、NPO法人プレイグランドが運営。

 

川越の路地裏にひっそりと佇む映画館です。

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【著者】 川越スカラ座 【月額】 ¥385/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 金曜日 発行予定

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