「昭和・平成レトロ商品」をネットで競り落とす人が陥る“後悔の回避”というワナ

2021.12.20
 

高額な落札額に凹んだ気分を和らげる「保有効果」

「保有効果」は自分が所有するものに高い価値を感じ、手放したくないと感じる心理現象です。他人から見て無価値なものでも、保有する本人は代えがたい価値を感じます。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、何の変哲もないマグカップを使って、この心理を証明しました。

被験者を「マグカップの買い手」と「マグカップの売り手」に分けて値段を付けさせると、売り手がつけた値段は買い手の2倍以上という高さだったのです。冷静な値付けをした買い手と違い、売り手は自分の手元からマグカップを手放すことに抵抗感を感じました。即ちマグカップの価値は高いと判断し、高く値付けしたわけです。

レトロ商品の落札者にも「保有効果」が働きます。

落札直後には高過ぎたかな…と思っても、手元に商品が届くと気分は変わります。高額な落札額であっても、自分の保有物にはふさわしいと思い込んでしまいます。そして高額な支払いで感じた後悔は薄らいでいきます。結果的にネットオークションで落札した記憶の良い面だけが残るというわけです。

もし高騰し続ける入札金額に腰が引けて、競り落とせなかった場合は、どうなってしまうでしょう。手に入れられなかった後悔が薄らぐことはありません。運よく同じ商品が出品される機会まで「あの商品は二度と手に入らないかもしれない……」と考え続けることになるのです。

心理学者のトーマス・ギロビッチは「人間は、行動した後悔より、行動しなかった後悔の方が深く残る」という名言を残しました。

競り落とせなかった後悔が記憶に残ると、別のオークションでは高額でも躊躇なく入札してしまいます。後悔を避けようとして損を繰り返すことにもなりかねません。

何事もハマると判断は狂いがちですが、特にネットオークションは人間心理をうまく突いた仕組みです。心して上手く利用するべきでしょう。

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引用:9 割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人 」
橋本之克秀 著/秀和システム

プロフィール:橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディング ディレクター 兼 昭和女子大学 現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店勤務などを経て2019年に独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。

image by : shutterstock

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