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【崩壊する東アフリカ】

東アフリカ地域の不安定化が止まりません。

その発端は、昨年、このコーナーでも何度かお話ししているエチオピア情勢です。2020年11月4日にスタートした北部ティグレイ州を舞台にした政府軍とTPLFとの紛争は、2021年6月以降、その戦禍はほぼエチオピア全域に広がり、収拾がつかない状況になっています。

数百万人から1,000万人に上る人たちが飢餓の危機に瀕していたり、ティグレイ州、隣接するアムハラ州やアファール州で集団虐殺、レイプ、略奪などが横行したりしており、目を覆いたくなるような人道的危機が顕在化しています。

ノーベル平和賞受賞者のアビー首相率いる政府と与党繁栄党は、多民族国家であるエチオピアの結束(integrity)を図るため、その方針に従わず、攻撃姿勢を止めない、以前の独裁グループTPLFが統治するティグレイ州平定に乗り出したのが2020年11月の状況だったのですが、その後、隣国エリトリアの軍が越境してTPLFおよびティグレイ人への攻撃に加わったことで事態は国際化し、その後、エリトリアの介入をよしとしないオロモ民族戦線(OLA)が、TPLFに加担して反攻に出ました。

決定的だったのが、エチオピア正教会の聖地であり、国民の信仰のシンボルである岩窟教会があるアムハラ州ラリベラを、TPLF/OLA側が無血開城したあたりから、反TPLF一色だった国民感情に変化が生まれ始めました。そしてほぼ同時期に、これまでTPLFによるものとされた数々の虐殺や略奪が、実は政府軍による仕業であったことが明らかになってくると、TPLFへのシンパシーが拡大し、各地で政府および繁栄党への反旗を翻す州が続出し、エチオピア国内情勢は不安定化してきます。

ティグレイ州からの数百万人に上る避難民が隣国スーダンに流れていることを受け、本件が一気に国際マターになり、国連事務総長や国連安全保障理事会からの非難も(注:決議は中ロの反対で出ていない)出てきますが、エチオピア政府がひたすら糾弾内容を全面否定し、国際社会との協力を拒むことで、エチオピア政府の孤立が深まります。

情報網が遮断され、欧米諸国を中心に、次々とエチオピアからの脱出が図られ、極めつけは国連職員の拘束および殺害まで起こったことで、ついに後ろ盾とされてきた中国政府も匙を投げた模様です。

アフリカの角と称される東アフリカの要所であるエチオピア情勢が不安定になることで、エチオピア経済と連結しているジブチ、内情不安定なスーダン、ソマリアなどで次々と内政不安が表面化します。

その顕著な例が、スーダンにおける統治議会議長によるクーデターです。ブルハーン議長(将軍)が首相のハムドク氏を拘束して実権を奪ったのが昨年10月のクーデターです。その後、解放されたハムドク氏が暫定首相に再任されて、2023年の民政移管に向けたプロセスのかじ取りをするはずでしたが、今年に入って、そのハムドク氏が辞任し、ブルハーン氏率いる国軍の目論見を壊したことで、一気にスーダンの内政が不安定化するという状況に陥っています。まさにクーデターの後遺症が表出したわけですが、これで、「国軍の影響力は一定程度残しつつ、表向きは民政による統治体制を作る」というかつてのミャンマーのようなシステムを構築したかった国軍の思惑は外れ、またスーダンは内戦状態に陥ったようです。

このスーダンの内情不安定化に、かねてより噂されているエチオピアの介入があったかどうかは定かではないのですが、スーダンとエチオピアは、ルネッサンスダム問題でも係争中であるため、両国の内政不安がこの問題の解決をさらに難しくするのではないかと、もう一国の当事国であるエジプトと、エジプトに早期解決を迫るアメリカのバイデン政権は焦りを隠せないようです。

アメリカからすると、エチオピアは予てより地域安全保障上の重要拠点であり、かつ中国のアフリカ進出を止める砦のような国という位置づけでしたし、スーダンは、トランプ政権末期にイスラエルとの国交樹立を条件にテロ支援国家指定を外し、支援を急速に拡大した“パートナー国”でもあるため、対中戦線の最前線を務める両国が、このように不安定な状況になったのは、外交戦略上、痛手と言えるでしょう。

同時に東アフリカの不安定化によって、アフリカ連合(AU)の調整力の欠如が露呈し、「アフリカの問題はアフリカによって解決する」というAUのモットーが早くも、脆く崩れ去りそうな雰囲気です。

東アフリカにおける非常にデリケートな安定のバランスが崩れ始めた今、ケニア、タンザニア、ソマリアなどの国々も交えて、一度は抑えた相互不信と終わりなき戦いの再燃を予感させる非常に嫌な状況になってきているのではないかと、私は恐れています。

2022年、この東アフリカ地域の問題から、目が離せません。

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