プーチン批判で一般教書演説を切り抜けたバイデンと米国民の反応

 

これまた慣例に基づいてまず閣僚が入場しました。当たり前といえば当たり前なのですが、今回の件の当事者であるブリンケン国務長官も、オースティン国防長官も、そしてスプリングフィールド国連大使も、全員が演説の会場に来ていました。私は「おやっ、一刻を争う事態は想定していないのかな」と一瞬思ったのも事実です。この3名は、いわゆる「シチュエーション・ルーム」的なところに待機するのかと思っていたからです。

更に注目されたのは、特にブリンケンとオースティンの表情です。2人は、とにかくリラックスした表情であり、そこには「やれることはやってこの事態になった」「とりあえずアメリカは当事者ではない」というニュアンスが見て取れたのです。

そう考えると、議場内には戦時の緊張感はありませんでした。ハリス副大統領も、ロバーツ長官以下の最高裁判事も、共和党のテッド・クルーズ、リンゼー・グラハムといった大物議員たちも、皆、かなりリラックスした表情だったのです。

演説の内容ですが、バイデンは、まず冒頭にウクライナ問題を持ってきたのでした。バイデンは、「自由は暴政に勝利する」とか「自由世界は団結する」といった極めて抽象的なスローガンで盛り上げると議場内は与野党ともに全員起立の拍手を行って団結を示していました。

エモーションのピークは、演説に臨席していたウクライナのオクサナ・マルカローバ大使を全員で拍手をして連帯を示してした部分、そして、マルカローバ大使がジル・バイデン夫人と抱擁したシーンでした。あくまで象徴的なシーンですが、ウクライナへの「連帯」を示すエモーションは確かに高まった瞬間でした。

こうした演出の後で、具体的にこの演説でバイデンが言及したのは以下の点です。

まず米軍とNATOの関与ということについては、

「ロシアをNATO領土には1インチたりとも入れない」

という言い方でした。これはこの演説以降は一種の「合言葉」になっています。言葉としては簡単な表現ですが、要するに「アメリカ軍はウクライナには絶対に入らない」し「NATO加盟国が攻撃されない限りは戦争に参加しない」という宣言に他なりません。ですが、こうした言い方をすることで「弱腰イメージ」を回避したわけです。当然と言えば当然ですが、プロの仕事と言えるでしょう。

制裁ということでは、既に実施していた金融制裁に加えて、ロシアの大富豪たち、俗にいう「オルガリヒ」への制裁と捜査を行うという宣言、こちらは既に方針として出ていましたが、改めて強く打ち出されることとなりました。

そして、今回の演説で新たな措置として発表されたのは、ロシアの航空機について米国空域への飛行禁止でした。措置としては大きくありませんが、とりあえず「新しい材料」ということで、発表されると議場では拍手が起こりました。

制裁に関するものとしては、この他に6,000万バレルの原油備蓄放出ということも宣言しています。これは、表面的には「アメリカの物価に配慮しました」という政治的メッセージですが、同時に「エネルギー取引の全面禁輸」に踏み切ることへの布石とも言えます。これもプロの仕事です。

ということで、バイデンとしては難しい課題をなんとかクリアする演説に持っていったと言えます。このウクライナの部分については、「プーチンはロシアを弱くし、世界を強くする」という決めゼリフで場内を盛り上げていました。

この「一般教書演説」についていえば、この後は民主党の提案している補正予算(BBB法案)を延々と説明し、このパートでは共和党はほとんど無反応でした。

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