塞げぬプーチンの“抜け穴”。露呈した「欧米主導の対ロシア制裁」の限界

2022.05.10
 

国際社会の分裂で塞ぐことができぬロシアの抜け道

また、世界に目を配れば、欧米主導の対露制裁に参加していない国は日本の友好国にも多い。たとえば、サウジアラビアなど中東諸国だ。トランプ政権時、米国とサウジアラビアの関係は極めて良好だったが、バイデン政権の誕生によってその関係は冷え込んだ。バイデン政権はイラン核合意への復帰を目指し、脱炭素など地球温暖化対策を重視するが、イランと犬猿の仲であるサウジアラビアはイラン核合意復帰を良く思わず、脱炭素は石油輸出大国サウジアラビアにとっては極めて非経済的な話になる。今日、米国シェールオイルはサウジアラビアにとっては大きな競争相手であり、そういう石油のグローバル市場という中では、サウジアラビアにとってロシアは戦略的協力者になりうる。

また、東南アジア諸国でもシンガポール以外の国々はロシア非難を避け、対露制裁には参加していない。中でもラオスやカンボジア、ミャンマーは長年中国が最大の経済ドナーである事情もあり極めて親中的で、中国がロシア非難を回避する中ではそれに追従するほかないという政治的事情もあろう(もちろんそれぞれロシアと独自の関係を有しているが)。また、インドネシアやマレーシア、フィリピンなどは米中の板挟み状態にあり、ロシアを非難する米国、沈黙を守る中国のどちらにも傾きたくないのが本音だろう。近年、米中対立が深まる中、ASEANはその主戦場になりつつあり、ASEAN諸国の中には大国間の争いごとに巻き込まれたくないという思いがある。最近も、今年11月に開催されるG20主要20か国・地域の首脳会議について、議長国となるインドネシアのジョコ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を招待するほか、ロシアのプーチン大統領が出席する予定だと明らかにした。これについて米国のバイデン政権は反発しているが、ジョコ大統領は世界が結束するべきで亀裂を生じさせるべきではないとの意思を示している。

以上のような分裂した国際社会に照らせば、ロシアには多くの抜け道が存在し、欧米主導の経済制裁の限界というものが今後さらに見えてくるだろう。

image by: Oxana A / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

print
いま読まれてます

  • 塞げぬプーチンの“抜け穴”。露呈した「欧米主導の対ロシア制裁」の限界
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け