また、もう1点、この裁判で会社が負けた理由として実務的に気を付けるべき点があります。それは、
・多数の社員が同様の不正受給を繰り返していたなど、会社の旅費支給事務にずさんな面もみられる
と裁判所が判断した点です。会社の管理がどんなにずさんであろうと不正受給をしていいわけが無いのは当たり前の話ではありますが、なにか不正があったときには会社の管理体制が問われることが多いのも事実ではあります。
例えば今回のような交通費に関して言えば、就業規則や賃金規程で決めている会社も多いと思いますが、例えば「自宅から会社までの通勤に対して定期代を支給する」と決めていたとします。
一見すると特に問題が無いように思えますがもし通勤経路が2つあり、金額が違ったらどうでしょう?金額の高い方の経路で申請し、実際は安い方の経路で通勤していても厳密には違反していないことになります。
もしそれを防ぎたいのであれば「自宅から会社までの通勤に対して定期代を支給する。ただし、支給するのは最も安価で実際に通勤している経路の分とする」のようにする必要があるでしょう(ただし、最も安価な経路ですと時間がかかるとか、乗り換えが多いとか、不便な場合もありますので場合によっては別の経路も認めるようにしたほうが良いでしょう)。
最後に、では実際にこのような不正受給がおきた場合、懲戒解雇は認められないのでしょうか。
私は認められる余地は充分にあると考えます。実際に経費や手当の不正受給では懲戒解雇が認められている裁判例もたくさんあります。
ただ、不正受給があったときに懲戒解雇が認められるかどうかを考えるよりも、いかに不正受給を発生させないかがもちろん重要です。不正受給ができない仕組みをいかにつくっていくかを考える必要があるかも知れませんね。
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