「戦犯はトランプだ」中間選挙で大勝を逃した共和党に広がる“独裁者”離れ

 

4点目は、社会価値観の問題です。とりあえず、連邦最高裁が判例変更を行って「各州での中絶禁止法の制定を合憲化」しました。これは、アメリカ社会にとっては大きな事件であり、保守派に取っては勝利に他なりません。勿論、そのように「暴走」したことが、今回の中間選挙の敗因の一つでもあるわけですが、保守派にとっては反省事項とはなりません。

反対に、もっと「暴走」したいという動きもあります。そこで彼等が狙っているのが、「同性婚の禁止」です。現在は連邦最高裁が認めている同性婚を「ひっくり返したい」という欲望が、福音派などには相当に溜まって来ているのです。上述したように、ペンス前副大統領は「トランプに反旗を翻した」ことで、ナショナル・ヒーローのようにメディアが扱っていますが、彼は骨の髄まで福音派です。

ですから、ペンスに仮に野心があるのなら、トランプ追い落としは手段に過ぎず、究極の目的は「同性婚禁止」にあると思われます。仮にそうした社会価値観の問題を大きな争点にして行くと、最終的には現在の人口ピラミッドの中では、共和党としては有権者の多数を取ることは難しくなると思います。

勿論、何も言わずに大統領になってから、最高裁判事の交代という事案が出たときに、この問題に関して保守的な判事を「突っ込んで」来るという形を取るかもしれません。いずれにしても、この問題こそ分断をより深刻化する可能性があるわけで、要注意と思います。

5点目は財政規律です。バイデン政権による、コロナ対策、環境対策などの巨額の歳出パッケージに対して、共和党は歳出カットを進めたいというという思惑を持っています。その一方で、連銀は「インフレ退治のためには、景気の冷却を」というかなり難しい判断を続けています。

仮の話ですが、共和党が思い切り財政規律の方向で暴走した場合には、金融引締と重なって一気に経済が「崖から落ちる」可能性があるわけです。現在は、非常に不気味な状況であり、中国GDPの減速、FTX破綻、FEDの引き締めというマイナス要因が重なる中で、更に歳出カットが性急に進められると、何が起きてもおかしくないとも言えます。

とにかく、共和党が仮に「トランプ下し」を本格化させ、更にその先に例えばデサンティスなどを擁立して、2024年の選挙で民主党に挑んでくる場合には、こうした5つの政策的な観点を丁寧に見ていく必要がありそうです。

では、民主党の側はというと、本稿の時点、つまり感謝祭休暇の直前の時点では、不思議な静けさが漂っています。どういうことかと言うと、中間選挙で大敗しなかっただけでなく、上院は勝利、主要な知事選にも勝ったという中で、「バイデン批判が止まって」いるからです。

バイデンは不思議に元気であり、バリ島での習近平との会談もとりあえず成功し、漠然とではありますが「蘇った」ように見えます。ですが、水面下では新たな政局が民主党の側でもうごめいています。

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