阪神・淡路大震災から28年。喪失感に苛まれる人に周りができること

 

東日本大震災の最大の特徴は、死者・行方不明者が約2万人にも上ったという点と、被害が甚大なために、震災前の状況に戻れるという確信が持てない状況が、長い間続いてしまったこと。さらには、福島県の人たちが将来が全く見えない状況に置かれてしまったことでした。

一方で、阪神・淡路大震災も東日本大震災も、どちらも多くの人たちが1つの喪失感だけではなく、いくつもの喪失感に苛まれ、深い心の痛みを抱えながら生きていました。仕事も、家も、日常も失った方もいれば、仕事と大切な人を失った方もいました。

喪失感は、さまざまな困難の中でも、乗り越えるのが難しいストレスです。当たり前にあったもの、当たり前にいた人が、いなくなった“日常”の変化に対応するには、自分の価値観までをも変えなくてはなりません。

「自然災害って人的な災害とは違うんですよ。怒りの持って行き場がないのは本当につらい」──これはこころのケアセンターのスタッフの言葉です。それでも人は生きていかなきゃならない。だからこそ余計に、心が痛む。

しかし、どんなに深い痛みであっても、その穴があることを受け入れる強さを人間は持っています。阪神・淡路大震災の支援者たちが、東日本大震災の被災者たちが人間の強さを、生きるとは何か、を教えてくれたのです。

「グリーフ(grief)」という言葉があります。日本語では、痛みと訳されることもありますが、痛みよりもっと深い心のありようです。学術的にはグリーフという言葉のまま使われています。

グリーフカウンセラーとして知られる、米フッド大学のデイナ・ケーブル教授は、「私たちは長年グリーフに直面した方たちの手助けをしてきました。その中で、常に驚かされるのは、どんなにつらく、どんなに長いこと悲しみを感じている人でも、最後には誰もがその悲しみを乗り越え、強さを取り戻すことです」──と話します。

悲しくても、苦しくても、それでも生きていかなきゃいけない時、人は生きるし、それを可能にする強さを人は持っている。しかし、その強さは他者がいることで引き出される力です。

つまり、大切なのは寄り添い続けること。個人が抱えるグリーフを、その人が受け入れられるようになるまで、隣に立つことくらいしか私たちにはできない。必要な時には耳を傾け、不安な時にはただただ一緒に時間を過ごす。時間をかけて寄り添い続けることくらいしか、「私」たちにはできないのです。

それが心のケアになるかなんてわからない。それでも立つ。隣に立ち続ける。たった一人の隣でいいから、立ち続ける。どんな「立ち方」をするかは人それぞれです。大切なのは「私はあなたのことを忘れてないし、決して忘れない」という思いが届くことではないでしょうか。

阪神・淡路大震災から28年。「私」たち一人一人が、「私」にできることを考え、それぞれのカタチで「誰か」の隣に立ち続ける。そんな国になれば、自然災害で流された涙が、光に変わるのではないでしょうか。みなさんのご意見、お聞かせください。

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