笑顔で日本を揺さぶる習近平。林外相に王毅政治局員がかけた「言葉」

 

透けて見える日本を笑顔で取り込む中国の戦術

では日本はどうでしょうか?今週、林外務大臣が久々に訪中し、日中外相会談が行われていますが、アステラス製薬の邦人駐在員の逮捕・拘留問題のやりとりという特殊事情以外には、アメリカと協調する形で執行した対中半導体輸出規制をめぐる日中間のやり取り、アジア太平洋における安全保障という観点から台湾情勢の緊張の高まりへの懸念の表明というのが主なアジェンダだったと思われます。

これを中国側はどう対処したのでしょうか?今回、会談した秦剛外相、李強首相(表敬)、そして王毅政治局員の表情を見てみると、総じて和やかなものであったのが印象的でした。それを読み解くと、「対日関係を前向きに推し進めていきたいという外交的立場を持っていて、笑顔で取り込もうという戦術を有している」というように理解できます。

ただ日本の外交姿勢に対して不満を持っていることは確かであり、それは、常々、王毅政治局員が繰り返しているように「日本は米国追随政策を取っていて、米国やその他西側諸国と一緒になって中国を封じ込めようとしている」という対日観に現れています。そして秦剛外相が「日本はG7の一員である以上に、アジアの一員であることを自覚してほしい」という言葉にも現れているように思いますが、その裏には「今後、外交を展開し、地域の安全保障に寄与するのであれば、日本は立場を明確にすべきだ」というメッセージも込められているように思います。

言い換えると、ここでも中国は揺さぶりをかけて、日米間およびG7の間の結束に微妙なヒビを入れようとしているようにも見えます。

2つ目の見解は【中国に有利な国際情勢の形成】という狙いです。

イランとサウジアラビア王国の外交関係の修復。ミャンマー情勢の調停の申し出。そしてロシアとウクライナの停戦の仲介。

これらはサプライズとして伝えられましたが、これらに共通するのは【関係国・地域と欧米諸国との切り離しと中国勢力圏の拡大】というポイントです。

イランとサウジアラビア王国の関係修復については、両国と良好な関係を結び、内政に一切コメントしないことで信頼も得ているという基礎の上に成り立ったディールと言えますが、それを可能としたのは、アメリカにサウジアラビアが見捨てられたと感じたことと、イスラエルでネタニエフ氏が再登板し、極右の性格がより強まったことで反アラブ・反パレスチナの傾向が鮮明になったこと、そして“実利をもたらしてくれるのは、中国だ”という確信によるものだと思われます。

25年ベースの戦略的パートナーシップの締結に加え、エネルギー安全保障の確保とテクノロジーの供与、そして外交的な双方向の支持という複数のチャンネルを合わせ技で繰り出して、西アジア地域を中国寄りに取り込んだと思われます。

サウジアラビアについては、まだ中国やイラン、ロシアとの関係強化を、欧米との関係回復と天秤にかけて使いたいとの思惑が透けて見えますが、UAEやイラクなどがすでにイランとの関係強化に動き、かつ中国との協力関係を強化していることに加え、イスラエルとの絡みであまりサウジアラビアやアラブ諸国寄りになれないアメリカや欧州の現実を見ると、中国の勢力圏に巻き込まれていくように見えてきます。

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