日本が世界の笑い者に。G7首脳へ岸田が振り付ける“時代遅れのダンス”

 

マクロンは岸田に正面切って議論を挑むのか。G7最大の見所

第2に、米国はそこを、世界は今や「民主主義国vs専制主義国」の対決の時代であり、前者の盟主である米国が元「西側先進国」=G7を引き連れて後者に立ち向かうのだと言って世界を説得しようとしてきた。しかしこの世界認識の図式は、20世紀後半=冷戦時代の「西側=自由陣営vs東側=共産陣営」図式の焼き直しでしかなく、完全に時代錯誤であり、岸田文雄首相がそのことに何の疑念も持たずに米国を盟主と崇めて西側先進国の対ロシア・中国対決の取りまとめ役を果たそうするのは滑稽という以上に危険である。4月初の訪中後に「米国の同盟国であることは下僕になることではない。……自分たち自身で考える権利がないということにはならない」という正論を言い放ったマクロン仏大統領がG7席上で、岸田の対米追従姿勢にやんわり皮肉を言うくらいで済ますのか、それとも正面切って議論を挑むのか、そこが実はこのサミットの最大の見どころである。

米国がこのような退嬰的な図式に嵌まり込むのは、「冷戦」が終わり、従って「西側」とか「先進国」とか「覇権国」とかの観念そのものの死語化しつつある中で、自国がどこに位置取りしてどう振る舞ったらいいか分からなくなるという認知障害に陥り、「やっぱり現と元の共産陣営をひとまとめに敵として設定し、それに雄々しく立ち向かう自由陣営の盟主という分かりやすい闘争姿勢に回帰しよう」としか思いつかなかったためである。この症状は誠に厄介で、これが進行するほどに自分を冷静に見つめて省みることをしなくなり、物事がうまく運ばないのは誰かのせいだとか、あいつが私の金を盗んだとか言い立てる類の被害妄想が酷くなる。米国が中国やロシアを経済的・軍事的に叩けばその分、米国が浮上するかのような幻覚に突入しているのはそのためである。

アメリカの幻覚。起こるはずのない米中の覇権交代

第3に、その先に散らつくのは、「中国が米国に代わって覇権を握ろうとしているに違いない」という米国の疑心暗鬼ないし謂れなき恐怖心である。これも世界構造の変化についての認知障害のなせる業で、「冷戦」が終わって米国と旧ソ連それぞれの東西両陣営における盟主の座が消失したということは、15~16世紀の西欧から始まった覇権主義の時代そのものが終わったのであって他の誰かが米国に代わって覇権を握るなどということは起こり得ない。このことを誰よりも理解しなかったのは米国で、冷戦を終わらせた当事者であったブッシュ父大統領は「米国は冷戦という名の第3次世界大戦に勝利し、唯一超大国になった」と誤認した。そうではなくて、冷戦には勝者も敗者もなく、核を含む軍事力で優勢な者こそ世界を支配できるという幼稚かつ野蛮な考え方自体が敗北したのであって、その後には覇権も盟主も東西陣営も何もありはしない。

ゴルバチョフはそのことを歴史哲学的・文明論的に完全に理解していたので、すぐさまWPO(ワルシャワ条約機構)を解体したが、ブッシュ父は何も分かっていなかったのでNATO(北大西洋条約機構)を解体せずに存続させたどころか、それを東方に向かって拡大しロシアを包囲しようとする錯乱的暴挙に出た。それが、今日のウクライナ戦争を引き起こした根本原因である。

冷戦後に米国が「唯一超大国」になったと思ったのは錯覚だし、その座が中国もしくは中露連合によって奪われるかもしれないと思い込むのは幻覚である。

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