3.都心のオフィスが消える
頭脳労働や知的労働は、機械化や自動化ができないと思われていました。しかし、AIの登場により、知的労働についても機械化の可能性が出てきました。
工場の機械化が進むと最終的には無人工場になります。無人工場は必ずしも最高の商品を作れるわけではありません。最高のアナログ商品を作れるのは、一流の職人です。コンピュータ計測では測れない微細な寸法の狂いやひずみを見分け、それを修正することができます。
しかし、多くの場合、無人工場の方が職人の工房よりはるかに多くの売上や利益を生み出します。一般の消費者は、一流の職人による完璧な商品でなくても、大量生産の商品で十分に満足できます。
これと同じことが頭脳労働でも起きるでしょう。かつて、合繊織物を生産する北陸産地は巨大な社員寮を持ち、千人単位の社員が働いていました。織機一台一台に織工さんがついていないと機械を制御できなかったからです。
現在のオフィスはパソコン一台一台に社員が張りついています。この光景は、私の目にはかつての織布工場と重複するのです。
現在の最新の織物工場は体育館程度の広さに数人の社員しかいません。全てコンピュータ制御で機械は動き、自動搬送ロボットが稼働しています。
おそらく、数千人規模のオフィスは消えていくのでしょう。都心のオフィス需要もなくなります。AIによる合理化は社員が半数になるという規模ではなく、社員が百分の一、千分の一になるでしょう。それでもビジネスは回っていきます。
4.アナログの生活は継続する
AIによって、知的労働の機械化が進み、デスクワーク中心のビジネスパーソンは百分の一以下になり、都心のオフィスが消えたとして、私たちの暮らしはどのように変わるのでしょうか。
産業革命で紡績が自動化されても、一般の消費者は変化を感じませんでした。紡績業で働く人が大幅に減少しても、商品の供給は変わりません。それに、生産効率が上がっても、需要が増えるわけではありません。市場規模は増えず、価格が下がります。競争力のない小規模企業は淘汰され、生産は大企業に集中しました。
同様に、デスクワークに従事する社員が減少しても、企業は商品やサービスを従来通り提供し続けます。どんなにAIが活躍しても、人口が減少すれば市場は収縮し、経済活動も減退します。
デジタル革命が起きても、我々の基本的な生活は変わりません。アナログな食事をして、アナログに身体を動かし、アナログに眠ります。男女がカップルとなり、子供をつくり、子育てをすることも変わりません。
産業革命以前の江戸時代、江戸の中で最もお金が動いたのは、魚河岸、芝居小屋、吉原だと言われています。現代風にいうなら、グルメ、エンタメ、芸能、風俗等の産業です。役者や花魁は当時のファッションンリーダーであり、浮世絵や絵草子等のメディア産業も盛んでした。人間の五感を刺激して楽しむ産業は今も昔も都市に集中していたということです。
一般の人々は、日本中に分散して自給自足を基本に生活していました。
AIが進化し、大企業の職場が消失しても、商品は生産され流通するでしょう。オフィスビルがなくなった東京の未来を考えると、江戸に近づくのかもしれません。
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