あまりにも幼稚。リヒテンシュタインの例を持ち出す皇位継承有識者会議の不誠実

 

元首の資産に頼り国家を運営するリヒテンシュタイン

スウェーデン、オランダ、ノルウェー、ベルギー、デンマーク、イギリスなどヨーロッパの君主制国家は、かつては「男系男子限定」だったが、時代に即さないと判断されるようになり、次々と「男女の区別なく長子継承」と改められてきた。

スペイン、モナコなど原則として男系男子による継承が維持されている国も、「直系の男子がいない場合は女王を認める」としており、王位継承者に王女が入っている。

その中で唯一、「男系男子による長子相続制度こそ正統」とするヨーロッパの君主制国家が、リヒテンシュタイン公国である。

スイスとオーストリアに挟まれた内陸国で、面積160平方km、宮古島くらいの世界で6番目に小さい国だ。

もともとはオーストリア・ハプスブルク家の重臣であった貴族リヒテンシュタイン家が治める国で、中世から周辺国の戦争による対立に揉まれながら立ち回り、いろいろあって1868年に軍を解散、「非武装永世中立国」を宣言した上で、武装永世中立国である隣国のスイスに外交や軍事、税関管理等を委任し、ふんわり守られながら二度の戦禍を逃れて現在に至る。

「そんな小国じゃ、日本とは絶対に国情が違うから参考にならないよ……」と思うかもしれないが、令和3年11月、岸田政権発足後に初開催された「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議では、こんな発言があった。

<我が国と同様、男系男子継承制を採るリヒテンシュタインにおいては、女性皇族が婚姻後も公族の身分を保持しつつ、その配偶者と子は公族とならないという制度であることや、継承者が不在となった際に継承養子を迎えることとしている制度があることは、緩やかに皇族数を増加させようと考えている今後の検討において参考となるのではないか。>

当日の産経新聞の記事によると、この会議の直後、有識者会議座長の清家篤氏が、記者会見の場でリヒテンシュタインの国名を出して「今後の検討で参考となるのではないか」と語っているから見逃せない。

リヒテンシュタインは、どこまで「我が国と同様」なのだろうか?

リヒテンシュタインの国家元首は、リヒテンシュタイン家の家内法(侯爵家家憲)によって「初代公爵のヨハン1世ヨゼフの系統の男系男子が継承する」と規定され、代々リヒテンシュタイン家の当主である公爵が引き継いできた。

ただ、公爵は元首としての地位や権威だけを守っているのではない。自国の何倍もの面積の土地を、旧ハプスブルク帝国圏内、オーストリア領内などに保有する世界有数の大富豪でもあるのだ。

ぶどうなどの農林、ワイン醸造、不動産、投資事業のほか、世界最大のプライベートバンク「LGTリヒテンシュタイン銀行」グループを一族で経営しており、個人資産の総額は約5,600億円(推定)にのぼる。

現在、130人以上の公族と、50人以上の公爵位継承者がいるが、全員が裕福なため、国からの歳費は一切受け取っておらず、逆に、国がリヒテンシュタイン家の資産に頼って国家運営を行っている。

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