あまりにも幼稚。リヒテンシュタインの例を持ち出す皇位継承有識者会議の不誠実

 

「法定相続人」としての意味合いが強いリヒテンシュタインの元首

裕福なのは公族だけではない。国民にも所得税や相続税は課されておらず、リヒテンシュタインの平均年収は1,000万円程度。法人税率も低いために、タックスヘイブン(租税回避地)として利用され、法人税による収入が全体の4割にものぼる。

この時点でわかることは、リヒテンシュタインの元首は「法定相続人」としての意味合いがかなり強く、そのことが国家としてかなり重要であるということだ。元首が類まれな資産管理能力を持つ大富豪だからこそ、国家として安定し、国民も裕福でいられるという国なのである。

そもそも、リヒテンシュタインの憲法によって「リヒテンシュタイン公国の公爵位は世襲制であり、成人の公爵位継承者および相続人、必要とされる後見人は、リヒテンシュタイン家が、家内法として決定する」と規定されている。

家内法とは、日本の場合なら皇室典範にあたるものになると思うが、その自由度がまったく違う。リヒテンシュタイン家の次期当主・元首に誰を指名し、資産を誰に相続させるかはすべて「家の問題」であり、リヒテンシュタイン家が決められるのである。

有識者会議では、「リヒテンシュタインでは継承者が不在となった際に継承養子を迎える制度がある」という話が出ているが、養子を迎えるか否か、誰を養子にするかは、すべて元首たる当主が指名するという話だ。

そこには当然、「リヒテンシュタイン家の一員として、信頼して資産を任せられる家系の人間か」「一族の経営する銀行や不動産会社、投資会社をきちんと管理していける能力があるか」という想定がまず入るだろし、子供ならば、現当主の影響を多大に与えて資産運用の英才教育を受けさせ、その子供の親戚一族に、資産を奪おうとする裏切り者がいないかを徹底チェックするという話になるに違いない。

「世代が600年離れていても初代当主の男系の血筋を継いでいればよい」とか「親の世代から国民として暮らしていても血筋さえつながっていればよい」という感覚ではないのだ。

さらに有識者会議では、「女性皇族が婚姻後も公族の身分を保持しつつ、その配偶者と子は公族とならないという制度」について話している。

家内法によると、リヒテンシュタイン家の構成員は、「現公爵と初代公爵の男系の子孫すべて」とされていて、男系の女性は、「リヒテンシュタイン公女」の称号と「殿下」の敬称を保有するとされている。

結婚しても公爵家の構成員としての地位を失うわけではないので、「公女」「殿下」と呼ばれる権利を維持しつづける──ということだが、もともとヨーロッパの貴族や大富豪は「公爵家の令嬢と結婚して爵位と領地を得る」という世界観があって、リヒテンシュタイン家の公女のなかにも他国の貴族の爵位を保有している女性たちはいる。

それに、そもそもヨーロッパの王公族の女性は、外国の王公族やその末裔、もしくは経済的・社会的に階層の釣り合う相手と結婚することが多い。

もちろん「貴賤結婚」と言われるケースもあるが、一族では嫌われ、認められないことが多い。つまり、「結婚後も皇族としての身分を保持するが、夫と子供は平民」というより、「貴族として、身分的もしくは経済的に階層の釣り合う相手と結婚する」という感覚なのである。

日本の皇族と違って、政治的権限を有しているため、公族が政治的な官職や公職に就くこともある。

例えば、現在の公爵のいとこにあたるマリア・ピア・コトバウワー公女は、ウイーン外務省、リヒテンシュタイン公国外交官として勤務したのち、在ウイーン大使、在ベルギー大使、在EU大使などを歴任。

ドイツ語、英語、フランス語、スペイン語をあやつり、ドイツ国立銀行の副頭取やドイツ内閣の主要大臣を務めたコトバウワー氏と結婚後も、欧州安全保障協力機構の代表団長や、在オーストリア特命全権大使などとして働いている。

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