あまりにも幼稚。リヒテンシュタインの例を持ち出す皇位継承有識者会議の不誠実

July,23,2021,vaduz,liechtenstein.,View,Of,The,Old,,Historical,Buildings,,Restaurants,And
 

皇室典範により、男系男子に限定されている我が国の皇位継承者。その改正を巡る議論の中で、参考となる国として同じく男系男子限定のリヒテンシュタイン公国を上げる声が出たと伝えられますが、そもそもリヒテンシュタインの「王室事情」はどのようなものなのでしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、同国リヒテンシュタイン家の実情を詳しくレポート。その上で、彼らと日本の皇室を同じように語る有識者の不誠実さを批判しています。

日本と同じ男系男子限定。それでもリヒテンシュタインの皇位継承が参考にはなり得ない理由

日本以外で、王位継承を「男系男子」に限定している立憲君主制の国は、中東のヨルダン、欧州のリヒテンシュタイン公国だ。一体どんな国で、どのように王位の安定継承を維持してきたのか?じっくり調べてみた。

何もかも日本とはまるで違いすぎるヨルダン

ヨルダンは、イスラム教の開祖ムハンマドの子孫である「ハーシム家」を王家とする立憲君主制の国家だ。

周囲をイラク、サウジアラビア、シリア、イスラエル、パレスチナなどの紛争当事国に囲まれていて、国民の半数は、中東戦争によってパレスチナから流入した難民とその子孫だという。

ヨルダンの王位は、憲法で「初代国王アブドゥッラー1世の男子直系世襲」と規定されていて、「ムスリムでない者、精神的に健全でない者、ムスリムの両親で合法的な妻から生まれていない者は何人も、王位に就くことはできない」とも書かれている。

「男系男子限定」をさらにガチガチに縛った王室だが、現在、ヨルダンの王位継承資格者は、37人。確認すると、2000年代以降に生まれた王子が15人もいて、安定している様子だ。

中東と聞くと、サウジアラビア(絶対君主制)のように一夫多妻制のイメージがあるが、ヨルダンでは「すでに結婚している妻の了承」が条件とされている。そのため、妻が拒否した場合、王位継承権を持つ男性は、離婚と結婚を繰り返して何人も子供をもうけるらしい。

そんなにややこしい手続きをしてまで……と思うが、憲法で「合法的な妻から生まれていない者」は王位継承資格を得られないからだろう。

異母兄弟の多いヨルダン王室は、もめごとが起きやすい。

現在のアブドラ国王は、異母弟であるハムザ王子と長年対立してきた。

もともと王位継承順位1位の王太子はハムザ王子だったが、アブドラ国王が継承権を剥奪、自身の息子フセインを王太子としたのだ。

ハムザ王子は、ヨルダン国内の各部族と親密な関係を保っていて、国内の治安維持における重要な役割を担っており、「次期国王」として推す声も高い人気の人物だった。遊牧民のテントを訪ね、国王に不満を持つ部族の長老とお茶をすすって語りあう様子をSNSで発信するなどして……アブドラ国王の気分をかなり害してきたらしい。

2021年3月には、人工呼吸器の酸素不足でコロナ死者を出した病院にアブドラ国王が訪れ、経営陣を叱責したことがあった。するとその数時間後、ハムザ王子が、その病院で死亡したコロナ患者の遺族を弔問。あたたかく迎え入れられる様子が報じられた。

これでますます確執が大きくなり、半月後、ヨルダンの治安当局がハムザ王子と側近ら16人を「外部勢力や国内の反政府派と連絡をとり、ヨルダンの安定を損なう行動の計画を練った」として丸ごと逮捕!ハムザ王子が王子の称号を放棄するに至った。

国王の一存で王太子を変更し、邪魔な人間は逮捕して王室から追い出せるほど権限が強く、王室の雰囲気も国情も、日本とはまるで違いすぎる。いくら「伝統的な男系男子による安定継承を維持する国」と言われても、参考にはならなそうだ。

なお、ヨルダンでは、女性の地位は高いとは言えない。「家の名誉を汚した」という理由で女性が家族に殺される「名誉の殺人」が行われており、「件数は減った」と言われているが、現在も年間15~20人の犠牲者が出る。

「夫婦喧嘩になり妻が裏切ったと思ったので、妻と娘2人を刺し殺した」

「妻が家出して義理妹の家にいた。妻と義理妹を銃で撃ち殺した」

このような殺人は、情状酌量され、殺害した夫は減刑される。

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